2022年10月の開所から2023年度(2024年3月)までの約1年半にわたる活動をまとめた『CCBTアニュアル 2022–2023』を刊行しました。PDF版は、本ウェブサイト上で公開しています。本記事ではその一部、アーティスト、クリエイティブコーダーでCCBTのヘビーユーザーでもあるセンバクさんへのインタビューを紹介します。
クリエイティブな共同体が支える、成長と創造の力
コロナ禍をきっかけに、p5.jsを使った作品制作を始めたクリエイティブコーダー、ジェネラティブ・アーティストのセンバク。CCBTのヘビーユーザーでもある彼女は、様々なワークショップやプログラムへの参加を通じて、自身の創作の幅を広げてきました。ワークショップへは家族ぐるみで参加し、自身の子どもの科学への興味や好奇心を育む機会としてCCBTを活用していると言います。今回のインタビューでは、CCBTのキャンプやワークショップでの経験が彼女の創作活動にどのような影響を与えたのか、そして子育てやクリエイターを支えるコミュニティの重要性について話を伺いました。

CCBTという協働と実験の場
CCBTとの出会いは、X(旧Twitter)で偶然見かけた未来提案型キャンプ「Future Ideations Camp Vol.1: Import *」の募集がきっかけでした。そこには、私が尊敬するジョン・マエダやゴラン・レヴィンといった著名な講師陣の名前が並んでいて、さらにProcessing1に出会ったきっかけでもあるアートユニットMATHRAXも参加するということで、絶対に参加したいと思いました。当時のCCBTはまだあまり知られておらず、夫には「大丈夫?」と心配されましたが……。
5日間のキャンプは講演からワークショップ、グループでの作品制作・展示まで盛りだくさんの内容だったのですが、自分で手を動かしてつくりながら進めたことがとても印象に残っています。グループワークでは、私はセオ・ヒョジョンさんがファシリテーターを務める、都市の中のサイネージをテーマにした作品制作に挑戦しました。ただ、時間が本当に限られていて、自分の作品とグループでつくる作品の両方を同時に進めなければならなかったのは、かなり大変でした。グループの作品では、CCBTに特設された大型のLEDモニターに展示することを想定して、サイトスペシフィックな表現を試みました。ここで初めてTouchDesigner2を使ったのですが、全然分からなくて、夜中まで作業していたことを覚えています。すべてが初めてでしたが、それも含めてすごく貴重な経験でした。
ほかのメンバーが私とは全然違うツールを使っていて、作品のつくり方もそれぞれ異なっていたことも面白かったです。例えば、私のようにその日の気分でデイリーコーディング3をするスタイルとは対照的に、コンセプトをしっかり練ってから制作を始めるタイプの人がいたり。同じグループには外国の方もいて、英語でコミュニケーションを取る必要もありました。グループでの制作は思い通りに進まないことも多くて、「こうしたほうがいいのに」と感じる場面もありましたが、意見を交わしながら他者との協働によって、自分一人ではつくれないものが出来上がることにとても感銘を受けました。
創作を通じて生まれたコミュニティとの絆
私が創作活動を始めたのは、子どものために購入したmicro:bitというプログラミング玩具がきっかけです。子どもが「これやってみたい」と言って一緒に始めたのですが、私自身がどんどんはまっていきました。その参考書として購入したのがMATHRAXさんの本4でした。そこから、Processingに興味を持ち、自分でも作品をつくるようになったんです。それまでは家と公園を往復する、子育て中心の狭い世界で生きていて、人生の袋小路に迷いこんでしまったような寂しい気持ちを感じていました。そんな状況の中でProcessingに出会い、そのコミュニティの人たちの温かさに救われた気持ちになったんです。ちょっと大げさかもしれませんが、Processingコミュニティは命の恩人のように感じている部分もあります。独学で作品制作を始めた頃はコロナ渦でもあったので、ほかの人と関わりたい、仲間が欲しいという気持ちがずっとありました。それもあって他のクリエイターと協働するかたちのワークショップにCCBTで参加しました。CCBTで出会った人たちとは今でも繋がりがあり、展示の場で再会することもよくあります。子どももCCBTのワークショップ「ひらめく☆道場」に通い続けていますし、参加者が新しいスポーツ競技をつくる「未来の運動会」にも家族全員で参加しました。CCBTでの活動は私自身だけでなく、家族にとっても重要な経験になっています。自分を救ってくれたコミュニティに恩返しをする意味でも、これからも作品制作を続けていきたいと思っています。

子どもとともに広がる創作の世界
子どもは特に理科の領域に興味があって、寝る前の読み聞かせは3歳の頃から科学雑誌『Newton』をリクエストするほどです。字を書くことが苦手なため、学校での学習に苦労することもありますが、CCBTは学校とは違うタイプの学びがあるので、いきいきと好奇心を育てられていると感じます。例えば、粘菌を育てるワークショップでは、子どもと一緒にシャーレに障害物を置いて粘菌がどのように成長するかを観察しました。これがすごく楽しくて、家でも粘菌を育てるためにシャーレを購入して観察を続けたほどです。私自身も、こうした科学的な実験や観察は初めてで、とても興味深い経験になりました。子どもには学校以外の居場所をつくってあげたいという気持ちもあって、CCBTで新しいテーマのワークショップが開催されるたびに申し込んでいます。
実は、初めてCCBTのキャンプに参加するとき、家族に「これに参加したい」と伝えることに、すごく勇気が必要だったんです。CCBTのキャンプやプログラムへの参加には家族間のスケジュール調整も必要で、その期間は家庭のことを夫と子どもにお願いすることになります。でも、主婦という「人のために何かをする立場」ではなく、自分自身としてふるまい、自分が何かをつくり上げているという感覚を持てる時間は、本当に心の支えになります。私自身、ものづくりが好きで、子どももそういう環境で育てていますが、「これを勉強しなさい」という押しつけではなく、自然と学べる場所があるのは素晴らしいことだと思います。このような場は私にとっても、子どもにとっても貴重な体験をもたらすものだと思います。
そして、何よりCCBTに参加してよかったことは、作品発表の機会が大幅に増えたことです。それまでは自分の作品を見せる場所はSNSが中心でしたが、CCBTを通じて実際に展示される機会を得ることで、より多くの人に作品を見てもらえるようになりました。恵比寿映像祭や渋谷ファッションウィークで作品を上映した際には、多くの人からフィードバックをいただいて、作品制作に対するモチベーションが一層高まりました。CCBTは多様な人たちが集まり、何かをつくり上げ、それを人に見せることができる場所だと思います。同じ方向を向きながら、それぞれの個性を活かして活動している。温かい雰囲気があるので、ここに来ると自然とやる気が出ます。「よし、頑張ろう!」と思える場所ですね。
新しいテクノロジーがもたらす未来のものづくり
これからCCBTでやってみたいことはたくさんあります。例えば、レーザーカッターを用いたフィジカルな作品や、ほかのメディアと組み合わせた表現を探求してみたいです。恵比寿映像祭2024の屋外展示や、最近ではShibuya Sakura Stageの小さな正方形が連なった立体的なサイネージで展示5した経験はとても衝撃的で、場所に合わせた作品をつくることに強い興味を持ちました。これらの経験をもとに、場所の性質に関係した作品づくりをもっと深めていきたいです。
子どもの頃からSFが好きだったこともあり、新しいテクノロジーにはとても親しみを感じてきました。日常生活の中に新しいテクノロジーが入り込んでくることに、違和感はなかったんです。初めて触ったデジタルツールはPhotoshopで、中学生の頃でした。ソフトウェアを触るのが楽しくて、ずっとパソコンの前に座っていた記憶があります。現在CCBTのラボにあるような3Dプリンターやレーザーカッター等も、私の子ども時代から考えると夢のようなツールですよね。未来はもっと進化して、どんどん良くなるという希望を持っています。また、デジタル化が進んでいく中で、メディアによってつくり方もアップデートしていくんだろうなと思います。今後ももっといろんな技術や方法に挑戦していきたいですね。
最後に、一人のユーザーとしてCCBTにはこれからも末長く続いてほしいと思っています。ここで学んだり、手を動かしてきた人たちが、次の世代を育てていく、そんな場になっていくことを期待しています。
1. ビジュアルアートやインタラクティブデザイン向けに開発されたプログラミング言語および開発環境
2. リアルタイム映像やインタラクティブアートの制作に特化したノードベースのビジュアルプログラミングツール
3. 1日単位で完成できる小さなアイデアをもとに、小規模なプログラミングを行う習慣や取組。クリエイティブな自己表現や新しいアイデアの探求を目的として行われる。
4. 久世祥三、坂本茉里子『プログラム×工作でつくるmicro:bit』(2019年、オーム社)
5. 2024年8月開催「CIVIC CANVAS Vol.1 : クリエイターズ・ワークショップ」。CCBT国内連携事業の一環として、渋谷桜丘エリアに2023年11月に竣工した複合施設「Shibuya Sakura Stage」のメディアファサード「INTER-SQUARE」を舞台にワークショップと上映プログラムを実施した。
『CCBTアニュアル 2022–2023』
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]の2022年10月の開所から2023年度(2024年3月)までの約1年半にわたる活動を体系的にまとめたアニュアル本。CCBTを拠点に展開された32のプロジェクトやイベントを紹介するとともに、参画したアーティストや参加者の方々のインタビューを掲載しています。
※書籍はCCBTほか、全国の美術館のライブラリーや美術大学の図書館等でもご覧いただけます。
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