Future Ideations Camp Vol.8 30年後のファッションを想像する

DAY 1

2026.08.07

100年前と100年後を想像する

  1. 事業説明「本プログラムについて」
  2. 参加者活動紹介
  3. 【レクチャー】「ファッションとは何か」
    講師:蘆田裕史(ファッション論、京都精華大学デザイン学部教授)
  4. 【レクチャー/ハンズオン】「100年前の編み図を編みなおす」
    講師:TALK NONSENSE(ファッションデザイン、リサーチプラクティス)
  5. 【基調講演01】「残すに値する未来を考える」
    登壇:安宅和人(慶應義塾大学環境情報学部教授、LINEヤフー シニアストラテジスト)

撮影:斉藤純平

Future Ideations Camp第8回は、真夏の5日間を通して、「30年後のファッションを想像する」をテーマに、総勢27人の参加者が、未来のファッション・社会を模索するプログラムである。

キャンプ1日目は、ディレクターの蘆田裕史とCCBT稲田によるガイダンスからスタート。まずキャンプとはどのようなプログラムかをおさらいしたのち、蘆田は津村耕佑によるファッションブランド「FINAL HOME」(1994年-)のコンセプト「究極の家は服である」を例に挙げながら、、コンセプト重視のファッションを日常的なものとして根付かせることの難しさを語った。生活、社会のなかで、いかにリアリティを持って服のことを考えられるか。それが、今回のキャンプでの成果展に向けた課題になってくることを示唆させた。

ガイダンスの後、参加者がひとりずつ自己紹介をし、午前のカリキュラムは終了。27名の参加者は非常に多種多様な経歴を持つ。年齢、文理などの専門性、経験してきたプロジェクトの規模、いずれにしても、真摯に研究や仕事、ものづくりを行っており、すべての活動が意義深いものに思えた。休憩時間には、1日目にもかかわらず、出会ったばかりの参加者たちが、積極的に交流する様子が伺えた。

午後は、ふたつのレクチャーと基調講演が行われた。ディレクター・蘆田によるレクチャーでは、「ファッションとは何か」をテーマに、ファッションという言葉があまりにも曖昧であることをふまえて、本キャンプの議論の上では、どの意味でファッションという言葉を使うのか、はっきりさせることが必要だと述べた。あらためて「ファッション」と「デザイン」という言葉が持つ意味を考えさせる内容だった。レクチャー内では、ツール「Mentimeter」が使用され、蘆田の問いに対して、即座に参加者の回答が得られる形をとり、インタラクティブに展開された。

TALK NONSENSEによるレクチャー・ハンズオンでは、「100年前の編み図を編みなおす」というテーマで、1914年にイギリスで発行された図案をもとに、実際に参加者全員が編針でニットを編んでいく。約100年という時の流れのなかで、何が変わり、何が変わらないのか。歴史に思いを馳せながら、参加者同士で互いに編み方を教え合い、初日にふさわしいアイスブレイクの機会となった。

DAY1の締めくくりは、「風の谷」プロジェクト等を手掛ける安宅和人による基調講演。ファッションに関する講演ははじめてだという安宅は、「30年後のファッションを想像すること」は、「30年後の人間と社会を考えること」であると話しはじめた。30年後、ひいては100年後の人間はいったいどんな服を着るのか。人口減少、温暖化、都市の過密化という様々な予期される未来を前提とした上で、安宅ならではの、極めて根本的で本質的な課題設定と、その課題解決の可能性がいくつも提示された。この講演からだけでも作品やプロジェクトを作れてしまいそうなくらい明確な突破口が教示された内容だった。しかし、続くレクチャーやグループワークでここからさらに複数の視点を得ることができるのが本キャンプである。DAY2以降にもたらされるであろう、新たな視座へ期待が高まる初日となった。

DAY 2

2026.08.08

服の先にあるもの

  1. 【レクチャー・ハンズオン】「150歳の自分が欲しいファッション」
    講師:金森香(DRIFTERS INTERNATIONAL Representative Director、株式会社precog アソシエイト・シニア・プロデューサー)
  2. 【レクチャー・ハンズオン】「『惑星』から考え、つくる、 30年後のファッション」
    講師:川崎和也(Synflux CEO、スペキュラティヴ・ファッションデザイナー)
  3. 発表・講評
  4. 【基調講演02】「イッセイ ミヤケのものづくり『一枚の布の可能性について』」
    登壇:宮前義之(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE デザイナー)

撮影:斉藤純平

キャンプ2日目、最高気温は34度。すべてのプログラムは室内で行われるが、水分補給を心がけ熱中症に細心の注意を払いながらスタートした。

一人目の講師は、「劇場と身体」を軸としながらイベント企画・プロデュースを手掛ける金森香。まず、金森がこれまで携わってきた障がいを持つ人々とのプロジェクトや、障がい者のニーズに寄り添うアダプティブ・ラインを展開する海外ファションブランドの事例を紹介した。その後、「150歳のファッショニスタ、特集取材」というテーマでワークを実施。参加者には質問シートと取材シートが配られ、二人一組で質問し合い、自分の考えを深め、記事にしていく。いきなり高齢者のためのデザインを考えるとなると、どうしてもどこか他人事となってしまうが、将来自分の身体や生活にどんな変化があらわれるのだろうか、と考えるとリアリティが出てくる。出来上がった記事は会場に掲示され、金森がコメント添えたり、参加者同士で意見を交換したりした。

二人目の講師はSynfluxの川崎和也。このレクチャーでは、あらかじめチームに分けられた状態でスタート。チームに与えられたミッションは、「今勤めている仕事を辞めて、ファッション産業におけるスタートアップを創業する」という架空の設定のもと、「30年後の未来と装いの風景を想像して、起業する会社が掲げるビジョンとプロダクトを構想してください」というもの。参加者は、川崎による綿密に設計されたワークシートをもとに、時間ごとに取り組むべきことが決められ、作業を進めていく。いくつかの参考になる知識や事例をインプットしたのち、あらかじめ設けられた問いに答え、それらをAIに入力すれば、企業・サービスの世界観を表現したビジュアルとウェブサイトが完成してしまうという制作プロセス。それでも、3時間でサービス・事業の発表を行うというのはかなりの難題で、各グループ制限時間ギリギリまで頭を悩ませていた。

3時間にわたるリサーチ・成果物の制作を終えたあとは、プレゼンテーション・講評を実施。参加者から発表されたのは、「デザイナーと工場を繋げるプラットフォーム」や「育てることのできる衣服」、「3Dプリンターを用いたデザイナーと消費者をつなげるサービス」といったアイデア。講評では、作り手にとっての価値と、受け手にとっての価値をそれぞれ考える必要があるというアドバイスなどがされた。

最後の講師は、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEデザイナーの宮前義之。1960年、三宅一生が日本ではじめて行われた世界デザイン会議に服飾デザインが含まれていないことへの提言を紹介し、この60年間でファッション業界にもさまざまな進歩があった一方、日本ではいまだ社会とどこか切り離されてしまっていることを指摘した。現在、宮前が携わるA-POC ABLE ISSEY MIYAKEのものづくりにおいても、「ファッションの世界だけを見ていても、探しているものはそこにはない」という。領域を飛び越え、つながり、誤解を解きながら、ようやく理解へと至る。質疑応答の際に宮前が発した「見たことのないものを見て、高揚することが人間たらしめる」という言葉からも、ものづくりへの真摯な姿勢のなかに、原点ともいえる少年のような好奇心が垣間見える講演だった。

DAY 3

2026.08.10

話して、着て、また話す

  1. ファシリテーター活動紹介
    岸根紗葵、古舘健、kan.、平岡真生、小梶真吾(TALK NONSENSE)、沖裕希(TALK NONSENSE)
  2. 【レクチャー・ハンズオン】 「なんでもいいっておもったりもする、でもなんでもよくないのはなんでだろう」
    講師:髙山エリ(スタイリスト)
  3. ワールドカフェ
  4. グループワーク

撮影:斉藤純平

キャンプ3日目は、本日よりジョインするファシリテーターの紹介からスタート。死生学とファッションを掛け合わせて研究を行う岸根紗葵、ミュージシャン・エンジニアでありながら織物の制作を行う古舘健、世界を旅しながらテキスタイルなどの手仕事に関するプロジェクトを行うkan.、他者との関わりのなかで生まれる親密性の揺らぎに着目して作品制作を行うアーティスト平岡真生が、それぞれ自身の活動や作品について説明した。

午後は、スタイリストの髙山エリによるレクチャー・ハンズオンを実施。会場の壁一面に設置されたラックには、髙山が用意した約150着もの服が並ぶ。参加者は車座になって座り、ディレクターの蘆田と髙山、そして参加者とのフランクな対話からスタート。3人ずつグループに分かれて、服を着ることに関する悩みや疑問、願望などをシェアした。その後メンバー同士でスタイリングを実施。職業柄や住んでいる場所柄など文化や属性ごとに親しみのない服などもあるなかで、他者の視点によるスタイリングが行われ、参加者はあまり慣れない組み合わせのファッションを存分に楽しんでいた。最後に髙山は、前日に行われた金森香のレクチャーで語られた言葉を引用しながら、「角が丸い」など、誰にとっても使いやすく開かれたデザインを考えると同時に、「好き」「楽しい」といった、自分自身の気持ちが動くことも大切にしてほしいと語り、レクチャーを締めくくった。

夕方からは、ワールドカフェを実施。グループワークのメンバーを時間制で入れ替えながら、6つのテーマについて話し合う。テーマには、「循環」「自分でつくる」「コラボレーション」「コミュニケーション」「のこす」「身体」といったこれまでのレクチャーや講評から飛び出した単語が見られた。テーブルの中央には、付箋と模造紙が設置され、参加者は気づきや発見を書き込んでいき、終了時には、模造紙に大量の付箋が。その後の休憩時間にまでわたって、議論を続ける様子も伺えた。その後は成果発表を行うためのグループ分け。ワールドカフェを終えて、各自もっとも関心を持ったテーマのテーブルへ集まり、6チームに編成された。このテーマを起点とし、参加者は最終発表へ向けて作品を制作する。

そこから続くグループワークでは、1グループにひとりのファシリテーターが加わり、適宜休憩や軽食をとりながら、約2時間にわたる議論、アイデア出しが進められた。

DAY 4

2026.08.11

グループワーク・中間発表

  1. グループワーク
  2. 中間発表
  3. グループワーク
  4. 【レクチャー】「ネズミたちの寝言 | We Squeak」

    講師:森栄喜(写真家)

撮影:斉藤純平

キャンプ4日目、蘆田による昨日の振り返りからスタート。本日からグループワークがメインとなり、議論を重ね手を動かしていく。ファシリテーターだけでなく、CCBTのテクニカルチームも本格的にサポート。ソフトウェア、ハードウェア、木工、音響、照明など様々な専門性をもつスタッフが成果展でのアウトプットを支える。

午前のグループワークでは、模造紙と付箋を使いながらアイデア出しをするグループや、宿題として行ってきたリサーチを机にひろげたり、素材を検討したりするグループが見受けられた。午後からは中間発表へ向け、アイデアの方向性を絞っていく。ホワイトボードやAIを使いながら議論を続ける班もあれば、実際に身体に素材を貼ったりしながら手を動かすグループ、作品のアイデアがある程度明確なグループは、逆算してコンセプトやストーリーを練ったり、展示方法を検討したりしていた。

中間発表では、この二日間のグループワークの進捗を報告。「のこす」チームは、形見や痕跡をのこす、というアイデアに絞り、どのようにその痕跡を運び、どんなサービスが考えられるかを模索していた。「循環」チームは、循環の負の側面に着目し、作品をつくろうとしていたが、講評でのコメントなどを受け、考え方を再検討。その結果、愛や人間の手触りが感じられる循環に着目し、制作を進めていきたいという方向性に至っていた。「身体」のグループは、実際に服のプロトタイプの制作を進め、自分の体の動きじゃないのに自分の体のように感じる「ひとりにさせない服」の様々なアウトプットの仕方を検討。「コラボレーション」チームは、服を買うという体験に着目し、実際に原宿のSHEINの店舗へ行ったリサーチとともに、Eコマースと試着の相性の悪さを指摘。これから、30年後はどんな試着体験が考えられるかを検討したいという。「コミュニケーション」チームは、人間にはだれかと繋がりたいという本能があることに注目。30年後、何を目印に仲間を見つけるのか、という問いから作品をつくっていく。「自分でつくる」チームは、服はいつ完成するのか、という問いから、鑑賞者とともにつくる服の展示を考えていると発表した。ディレクターの蘆田やファシリテーターは、さらに検討すべき視点や、そのアイデアにどんな可能性があるかなどをコメントした。成果発表へ向けてラストスパートをかける。

最後は、写真家・森栄喜によるレクチャー。家族のあり方やパートナーシップなど、人と人との関係性をテーマに、写真を用いた表現を行っている。森自身がある家族の一員となり、架空の家族を写した作品や、森と青年、少年の3人が赤い服をまとい、池袋の街を歩きながら道行く人に写真を撮ってもらうプロジェクトなどが紹介された。いずれも、既存の言葉では捉えきれない関係性を写し出した作品だ。こうした作品は政治的な主張として受け取られることもあるが、森自身は「作品に政治性を込めたつもりはひとかけらもない」という。ケーキを作ったり食べたりするような何気ない行為が、拳を上げているように受け取られてしまう。その感覚を語る森の言葉から、意図せず社会への問いかけとなり、見る人の想像力によって意味が広がっていく表現のあり方を考えた。それは、言葉を介さずとも何かを伝えてしまう、ファッションにも通じるものではないだろうか。

DAY 5

2026.08.12

グループワーク・活動成果発表

  1. グループワーク
  2. 活動成果発表

撮影:斉藤純平

最終日となるDAY5。朝早くから電話でミーティングをしていたグループや、買い出しを済ませてから会場に訪れるグループもあり、成果発表に向けた意欲の高さが感じられる一日のはじまりとなった。

各グループは会場に到着するなり、さっそく制作をスタート。午前の段階では、まだ議論をまとめているグループもあったが、CCBTチームやファシリテーターと積極的に相談しながら、徐々に手を動かしていく。お昼にはテクニカルチームと展示方法を共有し、モニターやプロジェクター、マネキンの使用、大判印刷など、それぞれの作品に合わせた様々な出力方法を検討。限られた時間の中、展示の完成に向けて急ピッチで作業が進められた。

そして夕方、いよいよ成果発表へ。前日の中間報告で得たフィードバックをもとにブラッシュアップした成果物と展示プランを、各グループが発表した。中間報告から方向性を変えずに制作を進めたグループもあれば、そこで得た気づきをきっかけに作品を大きく飛躍させたグループも。ここでは、それぞれの作品に寄せられたディレクター、ファシリテーターによる講評の一部を紹介する。

・テーマ:コラボレーション
天蓋をモチーフとした、持ち運べるパーソナルスペース
自分だけの空間を持ち運ぶという発想から、災害時には避難所としても機能するのではないか、という意見や、ドローンを使って空間そのものを浮かせることもできるのではないかなど、技術的な視点でのアイデアも提示された。

・テーマ:身体
二人で着る服
30年前と現在の身体感覚の変化をリサーチし、そこから30年後の身体を想像して制作したところがよい。あわせて、展示で用いるマネキンの見せ方についても意見が交わされた。

・テーマ:コミュニケーション
30年後のコミュニティを示すアイテム
現在は一体のマネキンが複数のコミュニティをあらわすアイテムを身につけているが、それぞれの属性の違いをより明確にするため、複数のマネキンを用いる方法が提案された。

・テーマ:循環
「愛のある循環」をテーマにした螺旋状の布作品と音楽
心臓の鼓動を思わせる音のあり方が印象的。「愛」や「無機質」といった言葉について、チーム内でもう一歩具体的に掘り下げていくことで、作品の世界観がさらに広がるのではないかという意見が寄せられた。

・テーマ:のこす
服とその記憶をのこすサービス
契約書を作成するなど、ユーザーがサービスを利用する際の体験まで細かく設計されているところがよい。写真を用いたり、ラボのような形式で展示したりするなど、サービスの内容だけでなく、展示全体のビジュアルまで丁寧に考えられている点も特徴的。

・テーマ:自分でつくる
来場者と一緒に編み上げていく、未完成の服
来場者が実際に手に取ることのできるマテリアル一つひとつにタグを付けるなど、参加者を作品へ引き込む仕掛けがよい。その仕組みを生かすための、具体的な展示案についても意見が交わされた。

5日間のキャンプを通じて、参加者たちは30年後の社会や人間のあり方を想像し、そこからファッションがどのように変容していくのかを考えた。それぞれの問いやアイデアは、最終的に6つの展示作品へと形を変え、会場に並んだ。

最後に蘆田は、「想像力」を大切にしてほしいと語った。誰かのために行動することも大切だが、その前に、その人がどのような生活をしているのか、どのような状況に置かれているのかをよく考え、想像すること。その積み重ねは、結果的に自分自身のためにもなり、ひいては平和にもつながっていく。5日間のキャンプで得た気づきや疑問を、ここで終わらせるのではなく、これからの制作や日々の生活の中でも生かしてほしい。そんな言葉で、5日間にわたるキャンプは締めくくられた。