ホーム / リサーチノート / Future Ideations Camp Vol.2|setup():ブロックチェーンで新しいルールをつくる

2023年8月26日から8月30日の期間において、CCBTコアプログラムの一つ「未来提案型キャンプ(Future Ideations Camp)」が開催されました。多様な人々が協働し、アートとデジタルテクノロジーによる創作活動を行う本プログラムの第2回目の開催となる今回のテーマは、芸術文化領域のみならず、行政、金融、医療など様々な分野で検証が進められている「ブロックチェーン」。レクチャーやハンズオン、グループワークによる共同制作を通じて、ブロックチェーンの仕組みを用いて「お金(通貨)」「NFT」「DAO(分散型自律組織)」を新たに構想し、未来に向けた新たな提案を行うことを目指しました。本レポートでは、選考を経た23名の参加者と、16名に上る講師陣が共に取り組んだ5日間の様子をレポートします。

撮影:村松正博

はじめに

2023年8月26日から8月30日にわたり、CCBTにて短期集中ワークショップ「未来提案型キャンプ」のVol.2が開催された。起業家や研究者、アーティストまで多様なバックグラウンドを持つ市民が、実際に自らの手を動かしながらテクノロジーの輪郭に触れる試み。講義や講演などを通じて、実際にその領域で活動を行なってきた当事者たちの経験にじっくりと耳を傾けられる貴重な機会でもある。本プログラムの特徴は、そうしたインプットを通じた学びの体験に加えて、その場で出会ったメンバーたちと共同制作を行い、一般公開を目標としたアウトプットを行うという点にある。共通の関心事をもとに集った仲間とはいえ、多様な世代、分野の人々が即興的にコラボレーションを行い、ひとつのなにかを作り出さねばならない。それ自体、ひとつの挑戦的な試みであると言えるだろう。まだ始まったばかりの技術とも言えるブロックチェーンの技術を用いながら、この社会に向けてどのような視点を提案できるのか、またそれをどのように実装するのかが問われることになる。パーミッションレスや対改ざん性、透明性といった新しい金融技術としてのコンセプト、近年可能性が注目されつつあるアートのメディウムとしての使用、そしてオープンソースの文化を発展させ、そこにインセンティブを与えたり、意思決定の仕組みを作り出していくような試みまで、多種多様な領域にまたがる実践を踏まえながら、テクノロジーと私たちの社会の関係について深く思考し、またその更新を試みる。

プレレクチャー:基調講演1「オンチェーン・アートがひらく『私』の表現」

Erick Calderon(CEO、創業者/Art Blocks)
2023.08.12

この「未来提案型キャンプ」の幕開けを飾るのは、Art Blocks1の創業者であるSnowfroことErick Calderonの基調講演。NFTの興隆によって拡大しつつある領域の、欠かす事のできない一要素となったジェネラティブアート。その震源地とも言われるArt Blocksが、どのように生まれたのか。また、なぜジェネラティブアートがこれほど多くの人々を惹きつけるのか。その秘訣を自身のキャリアを振り返りながら語った。

「Snowfro」の名前の由来は、色とりどりの色彩で人を楽しい気持ちにしたいという理由で始めたアイスクリーム屋さんの名称から。デザインのキャリアは、父親の家業であったセラミックのタイルから始まった。そのとき、作ったのが顧客の個性に合わせた色の選択を可能にする、色理論クロマティック・サークルに影響を受けた「Chromie」というシリーズだった。

技術の発展によって、それまで大量生産の無個性だったデザインに個性を持たせることが可能になった。一つのアルゴリズムから無数のヴァリエーションを生み出すことができるジェネラティブアートは、その意味でも時代にマッチしていた。ブロックチェーンの登場だけでなく、そのような環境の変化がArt Blocksの設立に繋がったのだという。今後、ジェネラティブアートの世界はさらに広がっていく。そのような環境のなか、アーティストの役割はブロックチェーンとの出会いによって生まれた可能性を探求することである、とErick Calderonは語った。

プログラム・ディレクター高尾(右)とのやりとりも。

*1: ジェネラティブアートに特化したNFTプラットフォーム。https://www.artblocks.io

DAY 1: お金(通貨)

2023.08.26

ブロックチェーンの仕組みを用いて、「お金」「NFT」「DAO(分散型自律組織)」を構想する5日間。その第一日目のテーマは、「お金」。第三者を介在させない取引を可能にするデジタル通貨を支えるための技術として構想されたブロックチェーンという技術に触れるにあたって、欠かすことのできない要素である。しかし、そもそも「お金」をいちから作り出すことは可能なのか。それについて考えることはまた、「お金とは何か」と問うことにも繋がっている。この日は、会田大也、髙瀬俊明の二人の講義とハンズオンを通して、その大きな設問について考える時間となった。

DAY 1-1: レクチャー「お金の価値」

会田大也(ミュージアムエデュケーター)

講師はアーティストとして「作品を制作し、売ることとはどういうことなのか」という問いかけから活動を開始したという、ミュージアムエデュケーター会田大也。「作品を売ること」について考えるきっかけとなった自身の作品、「お金」にまつわる歴史、そしてその仕組みを体感できるワークショップなどの事例を元に、普段私たちが当たり前のものとして接している「お金」にまつわるさまざまな事象について思考を促す講義を行った。

DAY 1-2: ハンズオン「お金をつくる」

高瀬俊明(株式会社TART 代表取締役)

2人目の講師はアーティスト、エンジニア、起業家でもある髙瀬俊明。「お金を実装するとしたら、何をすることが必要か?」という問いかけについて、参加者たちと思考を巡らせていく。「お金」を機能に分解し、実装するための用件定義に落とし込んでみるという思考実験を行った。続いて、実際にブロックチェーン上にRemix2とOpen Zeppelin3を用いてERC-204仕様のオリジナル通貨をデプロイ5するハンズオン。簡単なコードを自分で書く必要があるが、実際にお金を実装してみるという体験を通じて「お金」という存在について新たな視点を獲得する実践となった。

基調講演2「芸術と耕文活動」

 藤幡正樹(メディアアーティスト)

基調講演の2回目を飾るのはメディアアートの先駆者として知られる藤幡正樹。CCBTが冠する「Civic」という単語から発想し、日本における市民の概念、そして日本の「公共性」の問題へと話題を貫いていく。藤幡は、本来の意味での公共空間が日本にはない、それはなぜなのか、と問う。遡れば、その理由は、日本に民主主義がうまく根付かなかったという事実とも繋がっている。西洋と日本の歴史を遡りながら、翻訳や技術の問題、そして大学が持つ歴史的なあり方に至るまで、多様な問題に存在する共通した要素を汲み出しながら、私たちの文化の根幹にある構造的な問題を明らかにしていく。

続いてNFTの存在を世に知らしめたBeepleの歴史的なオークションの落札に触れ、デジタル作品が複製可能な性質により、既存の美術の土壌とは異なる存在として扱われてきたと述べる。それを優位性と見るか、そうでないと見るか。NFTの技術は、それを無理やり美術と同じ方法で売ることを可能にする。そのことに対して藤幡は異を唱える。彼のNFTの技術を用いた作品「Brave New Commons」と「My First Digital Data」は、そうした複製可能というデジタルの優位性をブロックチェーンの技術と融合し、作品の分散所有を行う仕組みを提案した作品である。

その作品はまた、多くの人々が購入すればするほど価格が下がるという仕組みによって、価格と価値の関係を問い直す。たとえば100万人がこの作品を購入したとしたら、作品の価格は1円になってしまう。そうなったとき、価格から見ればその作品は無価値かもしれないが、その存在は空気や水と同じようなものになるのではないかと、藤幡は想像する。空気や水のようになった作品は、一種の公共物のような存在となる。アートの最終目標は、そのような公共物となることなのではないか、と述べる。

デジタルデータは、複製技術によって公共物となる可能性を持つ存在である。そうしたメディアが持つ可能性を活かしながら、新しい技術に対してどのような投げかけを行うのか。藤幡はまた、西洋と日本という異なる文化が共通の土台に立たなければならない社会において、互いの視点から文化の土台を理解し、またその意味を言語化して伝えることが重要である、と主張する。外部から何かを持ってくるのではなく、文化を豊かにするために自らの足元にある土壌をいかに耕せるか。そのためには地下の文化、つまりアンダーグラウンドの文化を育てていくことも大切だと述べた。

*2:イーサリアムのスマートコントラクトを開発するための統合開発環境。
*3:Solidity(スマートコントラクトを扱えるプログラミング言語)の再利用可能で安全なスマートコントラクトのオープンフレームワーク。
*4:代替性トークンを扱うための標準規格。
*5:プログラミング言語で、プログラムを実行できる環境に展開すること。

DAY 2: NFT

2023.08.27

2日目は、近年のブロックチェーンの技術を広めるのに大きな役割を果たした「NFT」に視点を移す。実際にNFTのシーンで世界的に活躍するアーティストKaoru Tanaka、0xhaikuによるレクチャー、そしてwildmouseによるERC-7216のNFTを実際にデプロイするハンズオンである。
Open Sea7を用いてSNSに情報をアップするほどのシンプルな操作でNFTを作ることができるだけでなく、オリジナルコントラクトと呼ばれるスマートコントラクトを用いて一からNFTを制作する手法も、それほど困難な作業ではない。実際に手を動かすことで、その技術の持つ手触りも感じることができる。プログラムという言語が持つ固有の性質、そこにある感触から作品が生み出されることもある。環境が持つ個性はメディアが持つ特性として現れて、固有の作品性を形作る。

DAY 2-1: レクチャー「アート活動とNFT」、ハンズオン「コレクションとしてNFTをつくる」

田中薫(ジェネラティブアーティスト)

1人目の講師は世界で活動するジェネラティブアーティストのKaoru Tanaka。自身の活動の紹介を行いながら、NFTの世界に入るきっかけや、NFTを通じてどのぐらい活躍の場が広がったかなどについて語った。また実際に、イーサリアム8のテストネットを使ってOpenSeaでコレクションを作成し、アートを自分でミント9するところまでステップバイステップで体験した。

DAY 2-2: レクチャー「Generative in Smart Contracts」

0xhaiku(アーティスト)

2人目の講師は、スマートコントラクト10の技術を用いてブロックチェーン上で作品を発表するアーティスト0xhaiku。ジェネラティブアートとブロックチェーンが出会うことで生まれた、新しい可能性とその意義についての解説を行った。ジェネラティブアートは視覚的に数多くのヴァリエーションを生み出す手法であるだけでなく、システムそのものに作品性が宿るという既存の表現とは異なる創造性のあり方を持つ。そしてその先にアートが社会とつながり、影響を与え合う可能性があることをも示唆する。

DAY 2-3:ハンズオン「スマートコントラクトを使ってNFTをつくる」

wildmouse(ブロックチェーンエンジニア)

午後からは、実際にコードを書きながら様々なタイプのスマートコントラクトを実装する体験を行った。講師は、数々のNFTアートの裏側を支えてきたスマートコントラクト・エンジニアであるwildmouse。Hello World11のような基礎の基礎から始めて、最もシンプルなERC-721のNFTのコードを写経。NFTの画像データとメタデータをアップしながら、スマートコントラクトから参照、実装するところまでを体験した。スマートコントラクトの基礎を体験しながら、実際にNFTで使用されている技術や制作手法を体感できる講義となった。

基調講演3「Volume DAOの原動力:アートとそれを支える人たち」

Volume DAO (You-Sheng Zhang(Volume DAO共同創設者)、eziraros(アーティスト))

2日目の終わりには、Tezosブロックチェーンをベースに活動する台湾のコレクター組織、Volume DAOに所属するYou-Sheng Zhangとezirarosによる基調講演が行われた。キーワードとなるのは「Beyond」。その単語はメンバーの間のインタラクションを意味する。コラボレーションにより人と人の間にある障壁、そしてアーティストの創造性をも超えていくこと。決して容易ではないことだが、そのコラボレーションこそ彼らの原動力でもあるのだという。

DAOはアーティストに対してどんな役割を果たせるのか。作品をコミュニティ内でプロモーションできるだけでなく、ときにほかのDAOとも連携を行いながら、さまざまなプロジェクトを通じて共同制作を行う機会を生み出す。実際のDAOの活動の中で得られた知見や実際の作品を共有しながら、人々が集うことで関係性が生成されていくプロセスを可視化しながら解説していく。例えば展覧会のキュレーションを通じて、ジェネラティブアート、コードアートを社会に展開する実践。あるいは、2023年に行われたVolume DAOのキュレーションによる、台湾初の全て展示作品をブロックチェーンの関係作品で構成した「Generative Taipei On-Site」など。その展示の制作の際には、Volume DAOは芸術以外の部分にも活動の幅を拡張していったという。作品制作という創造的な面だけでなく、作品を作り出した後に生まれるさまざまな仕事にも力を発揮し、DAOのコミュニケーション能力という特性を活かした運営の仕事にも注力している。

一つの作品、一つの展覧会を作り上げるには、異なるペース、異なるスタイルを持つ人々が協力をしなくてはならない。重要なのは、多様なメンバーが集まっていることであると述べる。そのことによりコラボレーションが促進され、創造的な空間が生み出される。彼ら彼女たち自身も、その方法についてまだ学んでいる最中であるという。加えて、日本と台湾の互いに異なる歴史を持つもの同士の出会いが、どのように新しい物語を育むことができるのか、今後の連携の発展や協力についての期待についても触れた。その期待にどのように応答するのか、それは私たち日本人に向けられた問いかけでもあるだろう。そしてこの講演でVolume DAOが提示したのは、異なるバックグラウンドを持つ人々の出会いが多様な視点を生み出し、その空間を創造的な場に変えるという、DAOの役割であった。

*6:非代替性トークンを扱うための標準規格。
*7:世界最大規模のNFTマーケットプレイス。
*8:Vitalik Buterinにより考案されたブロックチェーン・プラットフォームおよびオープンソース・ソフトウェア・プロジェクトの総称。
*9:NFTマーケットプレイスなどでNFTを新たに作り出すこと。語源は英語のMinting(鋳造)。
*10:ブロックチェーン上に置かれたプログラム。誰もがアクセス可能で、人の手を介さずに与えられた条件を元にさまざまな処理を行うことができる。
*11:画面に「Hello, world!」 やそれに類する文字列を表示するプログラムの通称。

DAY 3: DAO

2023.08.28

ハンズオン&アイデアソン「Basic Elements for Practicing DAOs」

eziraros(アーティスト)、Jo-Lin Hsieh(Volume DAOコントリビューター、Sandwishes Studio共同設立者)、Shih-Tung LO(Volume DAOメンバー、アーティスト、キュレーター)、You-Sheng Zhang(Volume DAO共同創設者)

3日目のテーマは「DAO」。講師陣は、2日目の講演に続いてVolume DAOのメンバーであるeziraros、Jo-Lin Hsieh、Shih-Tung LO、You-Sheng Zhang。オープンソースの運動から生まれたDAOは、ブロックチェーンのイデオロギーを反映し、非中央集権的で自律的な運営組織を目指す組織形態である。現在も幅広い領域で実効性が検証されつつあるDAOだが、その本質を彼らは3つのパートに分割する。なかでもD(Decentralized)が人間、A(Autonomous)はテクノロジーが担うと述べた。人々が集まり民主的に意思決定を行うこと、それを永続的に動き続けるスマートコントラクトがサポートする。また、DAOがカバーするジャンルは、投資やプロトコル12、サービス、チャリティ、ソーシャル、コレクターなど広範囲に及ぶ。アジア圏に存在する多様なDAOの活動について紹介しながら、トップダウンではなく人々が民主的に物事を決定できるコミュニティの存在や、新しい何かを生み出すためのコラボレーションの重要性についても語られた。

続いて実際に、DAOにおける共通のお財布とも言えるマルチシグウォレットを制作するプロセス、仕事をした人々に証明書となるNFTを発行し遡及的に報酬を配分するプロトコル、そして起草された提案へ投票を行うツールなどを体験。新しい形の働き方を可能にするDAOのプロセスや業務の実態像をより高い解像度で理解できる内容となっていた。

*12:コンピュータでやりとりするために定められた手順や規約。ブロックチェーンのさまざまな仕組みや、アプリケーションを成り立たせている基礎部分。

DAY 4:グループワーク・講評

2023.08.29

4日目は、いよいよ展示する作品の構想を組み立てていく日。前日に、各自が興味を持つテーマを提出し、その関心の分類に基づいた5つのグループ、「アート表現」「社会・生活」「仕事」「コミュニケーション・コミュニティ」「マーケット」が作られている。

ホワイトボードや机上にポストイットを貼りながら、白熱した議論やアイデア出しが行われた。講師陣はそれぞれメンターとなり、グループが陣取ったテーブルを回っていく。各専門の見識からアドバイスを行うだけでなく、構想されたアイデアをもとに、一緒にプロセスを模擬体験し、そこから得られた知見の交換を行ったりもした。

最後は各グループによる中間プレゼンと講評。幅広い年齢層、領域からの参加者の傾向を反映してか、テーマはもちろんアプローチが全く異なる発表内容となっていった。講師たちは各々の立場から各発表へのコメントを行っていく。単刀直入な感想だけでなく、異なる視座を加えるような自身の経験談から、さらに奥の段階へと誘うための新たなリクエストまで。和やかな雰囲気のなかにも、多様な意見が並ぶ講評会となった。

基調講演4「Web3における法のデザイン」

 水野 祐(法律家、弁護士(シティライツ法律事務所))

Web3とはいったい何なのか。水野は、ビットコインなどの「通貨」、NFTなどの「コンテンツデータ」(デジタルアセット)、IDや認証といった技術(分散型ID)、そして「意思決定」(ガバナンス)という、4つの領域で分散化を促進する技術群であると解説する。そして非中央集権・分散志向性を持つ技術であるブロックチェーンを、「私的自治」のための新しい手段として捉え直すことを提案する。私的自治とは、ブロックチェーン参加者間のルール作りのための手段のことである。これまでは契約がその手段だったが、それに加えてブロックチェーンでは、アーキテクチャ(技術的構造)を設計することが可能となったのである。

続いて、NFTが登場したことで生まれた新しい問い、デジタルデータを「所有」することについての問題の整理を行う。法律的に言えば、無体物であるNFTを所有することはできない(所有権は発生しない)。ではNFTがもたらした所有感の正体とはなんなのか。所有権制度の歴史を紐解くことで、その法的な位置付けを解き明かしていく。NFTが登場したことにより、無体物に排他的独占権を設定できる可能性が出てきた、という点が重要である。その所有の概念を水野は「準所有」と名づける。そして準所有の概念と似たメタファーを持つ存在として、情報に疑似的な希少性を生み出すことができる知的財産権を挙げる。しかし知的財産権にも問題があるという。

アートなどの創作物だけでなく、個人情報やデータシェアリングなど、情報を広く公開することで利益を生みだす公共性と著作権が持つ排他的独占性との相反が、特にインターネット以降に際立ってきている。データの著作権を主張しないNFT+CC013という動きにも現れているように、著作権制度が持つ相反という問題を、ブロックチェーンやNFTが解消できる可能性がある。NFTでマネタイズされているため、作家のマネタイズと公共財としての性質が両立し得るのである。

最後に、これからの時代、法とアーキテクチャの両方を設計することが重要になってくると、水野は締めくくる。そして分断しがちな二つを両立する可能性を持つ技術が、ブロックチェーンであると結論づけた。法律とテクノロジーを道具として用い、価値を一つの場所にとどめることなくいかに社会の中に環流していくか。私たちと社会、そしてテクノロジーの三者の関係性をより良いものとしていくために、その視座は今後も重要なものとしてあり続けるに違いない。

*13:著作権保護コンテンツの作者・所有者が、著作権にまつわるあらゆる権利を放棄し、作品を完全にパブリック・ドメインに置くための法的ツール。

DAY 5:グループワーク・成果発表

2023.08.30

5日目は昨日に引き続き、展示に向けた制作作業をグループで行なっていく。プロジェクトのコンセプトの執筆から、展示プランの作成・設置、実際のアートワークの制作、プログラムのコーディングまで、各グループの発表内容に合わせて、フィニッシュに向けた作業が急ピッチで進められていった。技術面などで行き詰まりを見せたときや、客観的な意見が必要なときにも、さまざまなジャンルを専門とするメンターがいるので気軽に相談できる、そんな場面も見られた。

そして、ついに最後の成果発表を迎えた。時間のないなかにも各々がチームで編み出したコンセプト、そのアウトプットを解説していく。新しいコミュニケーションの形をデザインすることをテーマにチャットからジェネラティブアートを生成する作品から、クリエイターへの利益還元をコンセプトにした実際のスマートコントラクトを提案するプロジェクト、お金をモチーフにしたグラフィックをグリッチによって破壊するアートまで、その領域は幅広く、また表現手段も多岐にわたる。まさにブロックチェーンという多様な側面を持つテーマならではの多面的なアプローチが現れた成果発表となった。互いに共通した時代認識や、テーマのシンクロニシティ、そしてアプローチの対比も見られた。講師陣の講評は、作品に対する感想や意見だけでなく、そこから導かれた現在の状況への洞察、未来に向けた新しい提案まで、建設的な議論が立ち現れる会となった。成果発表の詳細は、特設ウェブページより確認できる。


まとめ

5日間にわたる高密度の講義と、喧々諤々の議論を繰り広げた集団制作が幕を閉じた。改めてこの領域の広さと深さに驚かされる体験であった。講義や講演によって思考を促され、そしてハンズオンや作品制作など実際に手を動かす感触を得て思うことは、ブロックチェーンは技術であるが、それ以上の存在だということである。技術の周りに人々が集まりその可能性を検証する。そこで新しい価値やコンセプト、新しい世界のあり方が発見されるだけでなく、そうした人々の集まり自体が島宇宙のような、コミュニティが連なる巨大な文化圏となっている。新しい社会のあり方について考え、そのために技術をどう用いれば良いか。その役割は、けしてアーティストだけが担うものではない。コミュニティの一員である市民一人ひとりが、試行と思考を繰り返しながら、新しい知恵を捻り出していくことが求められている。そうして生み出される人々と技術の対等な関係こそ、今ブロックチェーンという技術が躓きながらも形作ろうとしている文化なのである。

5日間のキャンプの全貌、参加者/講師の声、成果発表の詳細は下記ムービー、および特設サイトで確認できる。


参加者、プロジェクトメンバー

参加者

会田 寅次郎(ソフトウェア開発者、アーティスト)、ava(CG ジェネラリスト)、呉 易平(コミュニティデザイン、ユーザー体験デザイン/株式会社Gaudiy)、梅田 正人、大久保 敏之(空間デザイナー)、小木 久美子(アーティスト)、梶野 健太郎(アーティスト)、熊谷 晶 (ディレクター/株式会社GREENING)、坂村 空介(Generative Artist 、東京都立大学 学生)、Samuel YAN(クリエイティブコーダー、東京都立大学 大学院生)、sawako(サウンドアーティスト)、庄野 祐輔(編集者、デザイナー)、鈴木 由信(テクニカルディレクター)、髙橋 隆太 (武蔵野美術大学 学生)、田島 琢巳(デザインエンジニア)、田仲 巧 (デザイナー、ファウンダー)、TAMAFREEDOM(Web3プロデューサー)、teshnakamura(ジェネラティヴアーティスト)、寺江 圭一朗 (美術作家)、當間 知明 (エンジニア)、ナカヤマハルキ(エンジニア)、羽生 和仁(アートコーディネーター、 知財アドバイザー)、森 達哉(東京大学 大学院生)、來迦 結子(現代アーティスト)

講師/ファシリテーター

Erick Calderon(創業者、CEO/Art Blocks)、会田 大也(ミュージアムエデュケーター)、eziraros(アーティスト)、Jo-Lin Hsie (Volume DAOコントリビューター、Sandwishes Studio共同設立者)、Shih-Tung LO(Volume DAOメンバー、アーティスト、キュレーター)、菅沼 聖(山口情報芸術センター[YCAM]社会連携担当)、髙瀬 俊明(株式会社TART 代表取締役)、田中 薫(ジェネラティブアーティスト)、永嶋 敏之(デザインエンジニア、ディレクター/株式会社メタファー代表取締役)、0xhaiku(アーティスト)、藤幡 正樹(メディアアーティスト)、松橋 智美(株式会社メルカリ 政策企画、Arts and Law所属)、水野 祐(法律家、弁護士(シティライツ法律事務所))、You-Sheng Zhang(Volume DAO共同創設者)、wildmouse(ブロックチェーンエンジニア)

プログラムディレクター

高尾 俊介(アーティスト、ジェネラティブアート振興財団代表理事)

スタッフ

プログラム・ディレクション:伊藤 隆之(CCBT)
プログラム・マネジメント:島田 芽生(CCBT)、廣田 ふみ(CCBT)、小林 玲衣奈(CCBT)
テクニカル・スタッフ:岩田 拓朗(arsaffix)、三浦 大輝(arsaffix)、田部井 勝彦(CCBT)、乙戸 将司(CCBT)、イトウ ユウヤ(arsaffix)
配信ディレクション:岡本 彰生(ネーアントン合同会社)
運営:吉良 穂乃香(TASKO)、矢作 そら(TASKO)、田井地 直己(TASKO)、加藤 夏帆(TASKO)、向井 寛(TASKO)、田中 あり沙(TASKO)
参加者補助:津間 啓語
英語に関する全て:佐野 明子
記録:播本 和宜、村松 正博