
見えないもののさざめきたち

メンバー
上田羊介、渋谷和史、Nanami、平山理貴
この展示は見えないものを見よう・知ろうとするための想像力の種をまくことを目的としている。伝える手段が人間と異なる生きもののことを知ろうとするならば、他人を理解する時以上に読みとる努力が必要とされることだろう。
たとえば草木の葉っぱの上にも目に見えない生態系が広がっていて、様々な生きもの同士が網目のように関わり合いながら暮らしている。そういった微生物の姿を意識することのない瞬間を私たちは生きている。私たちが普段意識していないだけで、私たちも多種の絡まり合いの中に織り込まれ、ふとした動きにも生きものたちは何かしらの応答をしているのかもしれない。この作品では植物と微生物、人間の絡まり合いを目に見える動きとして表現することを試みた。
想像してみよう。
目に見えないものたちのさざめきが聞こえるかもしれない。
トランジット:膜の地平線

メンバー
Shion Kim(金志)、タゴチャン、田中マサト、YO_TEISION
微生物のDNAシーケンスの配列から「膜タンパク質」の塩基をピックアップし、音と振動に変換した。また、メンバーの古着を中心とした布を用いたオブジェの制作を通して、膜や微生物の形態への思考を深めた。微生物のオブジェには役目を終えた講義資料が物理的に内包されており、今回得た知見を細胞内小器官と見立て、細胞膜を形成するように布で包まれている。
音や振動の生成で用いたデータは、CCBTの床や壁、人形から実際に採取された微生物の遺伝子データである。遺伝子から微生物を特定し、膜タンパク質の遺伝子のデータを検索することには壁もあったが、講師の協力や、生物系の研究室で働くチームのメンバーにより、膜タンパク質の塩基の特定を実現することができた。
膜というのは、外界と生物がコミュニケーションする境界であり、かつ、生命の誕生にも関わっている。肉眼では見えない微生物やDNAの存在、そのデータをフィジカルなオブジェとの接触を通して感じられる空間の制作を目指した。
Listen to Your Neighbors

メンバー
ssmtat、大平麻以、佐野風史、志智友海、Tokuno Kihiro、なかのかな、平松守瑠
あなたは今、公園通りからレンガの階段を下り、滝の流れる中庭を望む廊下を通り、CCBTの内部へ足を踏み入れた。途中で、何か生き物に出会っただろうか?その気配を感じただろうか?
1人の人間には、100億を超える微生物が共に生きていると言われている(*1)。アメリカの一般的な家庭には、20万種以上の生物が存在するという調査結果もある(*2)。今、この瞬間も、あなたの周りには無数の生命が息づいている。
「Listen to Your Neighbors」では、私たちの小さな隣人たちの存在を、レンガや中庭の木々、カーペットなどから拭い取ってデータ化し、音として聞けるように加工した。この空間に生きる生命たちの存在に耳を傾け、あなたと彼らが気づかぬうちに織りなしている、ささやかな物語を感じ取ってみてほしい。
(*1) Alan W. Walker and Lesley Hoyles, “Human microbiome myths and misconceptions,” National Microbiology 8, 1392-1396 (August 2023). https://doi: 10.1038/s41564-023-01426-7. Epub 2023 July 31. PMID: 37524974.
(*2)ロブ・ダン,「家は生態系 あなたは20万種の生き物と暮らしている」 (今西康子 訳), 白揚社, 2021年
人間1回やめてみた

メンバー
有馬いりん、小川愛結、古山寧々、新名さくら
私たちは、「一度人間をやめてみたい」という共通の思いを持つ3人と、「人間のままでいたい」と考える1人が集まり、【環世界】をテーマに作品を制作した。
環世界とは、生物ごとに異なる知覚や感覚の世界を指すが、人間は他の生物の環世界を本当に理解できるのかという疑問があった。
例えば、視覚に優れた生物の目を、光センサーのデータのように観察・分析したとしても、私たちはその生物の世界を真に理解しているとは言えないのではないか、という問いである。そこで、私たちは、選んだ生物の動作や食事を観察し、それを模倣することを試みた。
しかし、制作過程を経て、人間が他の生物になることには限界があると感じた。セキセイインコのように素早く食べることや、タコのように柔軟に動くことは、人間には容易ではない。だが、この「限界」を体験し提示することで、非人間と人間との違いを、より中立的に表現できるのではないかと考えた。
Unknown Noise

メンバー
越智梓、川原圭汰、菅野禅
都市環境は、常に小動物や植物以外にも「未知の存在」と隣り合っていることを私たちは意識しているだろうか。 渋谷で採取した微生物サンプルを解析すると、身近な場所にもかかわらず生物種が特定できないものが多くを占める。私たちは神や精霊など未知な存在との交信手段として用いられてきた音によって、 目には見えない微生物、さらには何者かすらも分かっていないものたちの世界といった現代における「未知の存在」との交信を試みた。
渋谷で採取した微生物サンプルの解析結果から、存在を解析できた微生物種の代表的な生息環境を象徴するサウンドをミックス。「未知の存在」として解析できなかった微生物群の割合を音のノイズとして重ねることで、都市の微生物の存在をサウンドで表現することを試みた。 微生物サンプルを得た渋谷の採取地点に貼られたシールは、QRコードからのアクセスによって、その地点の都市の中に潜む生命を意識させるサウンドをその場できくことができることを構想した。
この展示では、作成したサウンドサンプル、実際に渋谷駅で貼られた微生物が付着しているであろうシールの実物を展示する。
Revolutional Playback

メンバー
猪口陽平、中橋侑里、羽田光佐
地球上のあらゆる生物が、元々はひとつの生命体からはじまったということを視覚的に体験する作品。
私たち生物は、『同じ生命体』から、38億年という『同じ時間』を経て各々の道を辿りながら進化してきた。
動物も植物も微生物も、そういった進化の過程を経て現代まで続いてきた、同じ生態系の中にいる仲間である。
一方で人間は、それらの生態系の中にいるのにも関わらず、そこから切り離された存在として捉えられることが多いのではないだろうか。
この展示では、複数の生物の進化の歴史を平行に並べ、時間軸をスライダーで移動させることで直感的に進化のプロセスを遡っていくことができる。それによって、それぞれの生物が歩んできた進化の変遷を理解するのと同時に、最終的にはひとつの生命体に集約するという体験を制作した。