ホーム / リサーチノート / CCBTと大学・研究機関との協働事業「情報保障支援調査研究プロジェクト」


シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]では、大学や研究機関との協働事業として、アートやデザイン、テクノロジー分野の学術研究を活用して、都立文化施設における新しい鑑賞体験や情報保障支援等の開発に取り組んでいます。さまざまな身体的特徴や文化的背景、考えを持つ人々の協働を通じて新しい芸術文化の楽しみ方を探求しています。

そのうちの1つである「情報保障支援調査研究プロジェクト」は、国立大学法人筑波技術大学と協働し、インクルーシブ・デザインによる新しい情報保障支援策の開発を目指すプロジェクトです。デジタルファブリケーションを用いた新たな形態の情報保障支援策の検討など、テクノロジーを通じてこれまでと異なる新たな芸術文化の鑑賞・参加機会の提供し、誰もが芸術文化に触れ、参加できるような環境整備に寄与することを目指しています。

リサーチノートでは、プロジェクトメンバーのひとり、森敦史さんによる研究会の様子を紹介します。

第1回研究会

実施日:2023年6月21日(水曜日) 
会場:CCBT

シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]は、アート×デジタルによる新たな鑑賞・表現の創出を目的とする大学・研究機関との協働事業を実施しています。その一環として展開する「Diversity &Inclusion」事業は、インクルーシブ・デザインの手法により、障害当事者や専門家のみならず、文化や言語、考え方の異なる人々が協働しながら、芸術文化の新しい楽しみ方を追求しています。今年度より開始した筑波技術大学との協働による触察模型製作プロジェクトもそのなかの1プロジェクトです。このプロジェクトは、3Dプリンターなどデジタルファブリケーション技術を用いて触察可能な模型を試作・触察可能な基準の検証を繰り返すことで、文化施設における新たな情報保障支援策と、よりユーザーに届くかたちでの情報発信を検討することを目的としたものです。CCBTからはデジタルテクノロジー通ずる専門ススタッフ、本学からは先天性盲ろう者であり、これまで文化施設の情報保障支援について調査をしてきた森が参加し、まずは「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」を題材に、ディスカッションを通じて触察模型の製作に挑戦します。

本プロジェクトを開始するにあたり、CCBTにおいて、6月21日 水曜日にキックオフ研究会を開催しました。研究会では、テクニカルスタッフ2名を含むCCBTのスタッフ6名の他、盲聾当事者である私を含む本学から2名が参加しました。なお、研究会開催に当たっては、盲ろう者向けに触手話通訳者、聴覚障害者向けに手話通訳者が配置されました。

第1回となる今回の研究会では、各スタッフより自己紹介とご自分の活動内容の紹介があった後に、CCBTのスタッフより、本プロジェクトについてとCCBTの紹介をしました。
 
続いて、初めてCCBTを訪問した私が、CCBTの館内を見学する機会をいただきました。まず、入り口付近にある噴水の水に触るとともに、噴水の端から端まで歩きながら、噴水の大きさや水が流れる様子の説明を触手話で受けました。また、館内の壁等を触りながら、部屋の構造、館内の広さやレイアウトを確かめるとともに、天井やそれぞれの部屋のカラーの特徴、プロジェクトで使用する3Dプリンターの種類等を通訳者やスタッフに確認しました。

最後に、CCBTテクニカルスタッフが3Dプリンターにて制作した最寄駅からCCBTまでの地図を示した模型を触察し、触察に適した大きさ、触ったときのわかりやすさ、位置情報の表示方法、安全性等触察に関する意見を述べました。通常公共施設の入り口等に置かれている触地図は、道順等の平面的な情報しか得られないことから、私は今回の試作品を通して、道路周辺の建物の形や段差の有無等を理解するのに、立体的な模型の利用は適しているのではないかと考えました。

今後は、CCBTという場所の情報保障としてどんな触察模型がいいのかを考えることから始めていく予定です。CCBTは、文化施設の多くが1つの建物としてあることは異なり、東武ホテル渋谷の地下2階フロアにあります。このため、模型は建物全体のものがいいのか、フロアだけでいいのか、階段入り口部分もあったほうがいいのか、などを考える必要がありそうです。CCBTとして発信すべき情報がある一方、我々盲ろう者や視覚障害者が知りたい、知っておきたい、あるいは必要とする情報もあると考えられます。それら情報が過不足なく組み合わさった触察模型を目指して、今後研究会でのディスカッションを重ねていきたいです。

CCBTでの顔合わせ。森敦史氏のこれまでの活動について共有。
CCBTでの顔合わせ。森敦史氏のこれまでの活動について共有。
森さんが使用している点字ディスプレイ(ブレイルセンス)に興味を持つCCBTスタッフの様子。
森さんが使用している点字ディスプレイ(ブレイルセンス)に興味を持つCCBTスタッフの様子。
CCBT探検中の森さんの様子。場所はテックラボ。CCBTにあるデジタルファブリケーション機器など説明を、触手話でCCBTインターンの多田さんから伝えている。
CCBT探検中の森さんの様子。場所はテックラボ。CCBTにあるデジタルファブリケーション機器など説明を、触手話でCCBTインターンの多田さんから伝えている。

第2回研究会

実施日:2023年7月12日(水曜日) 
会場:筑波技術大学

6月にCCBTで開催した研究会において、施設の触察模型を作成するにあたり、CCBTの施設以外に盲ろう者や視覚障害者が情報保障として必要な場所として、筑波技術大学春日キャンパスが検討されました。本学・筑波技術大学は視覚障害者と聴覚障害者のための高等教育機関であり、二つあるキャンパスのうち、春日キャンパスでは、主に視覚障害学生が学んでいます。従来から設置しているキャンパス内触地図に加えて、建物の構造やキャンパスの特徴を示した模型があれば、屋根などに触ったことのない視覚障害学生も利用するのではないかと考えたことから、そのような模型の有無や学生が必要とする情報を確認すべく、CCBTのスタッフに本学の教員である小林真教授と宮城愛美教授を訪ねに来ていただきました。

教員のお二人には触察模型の有無だけでなく、指導する立場での学生への模型定時の必要性等をお話いただきました。具体的には、本学には上記の建物の構造やキャンパスを示したような本格的な模型はありませんが、その理由として、教育という観点から、学生にも考えて学んでいただきたいというお考えがあることを教えていただきました。実際、触地図にも意図的に「ここに池がある」といった情報を表記しないことがあるそうです。また、特別な模型を製作しようとするとコストと時間がかかることから、紙や粘土等の市販品やおもちゃなどの既製品を教材にすることが多く、学生に模型を作成していただくこともあるとの説明をいただきました。

最後には、視覚障害者自身が、これまでに得た情報や経験を踏まえて、自分のイメージを粘土などで形にして、実物と異なる点を指摘してもらうという取り組みを含め、今後の研究会やイベントの内容についてのアドバイスをいただき、私にとってもCCBTのスタッフにとっても大変有意義のある時間となりました。

今回の研究会を通して、単に盲ろう者や視覚障害者に必要な情報を提供していくだけでなく、考えて学んでもらうこと、そのためにはヒントを与えることも、彼らにとって、物事への関心や意欲が高まるきっかけにもなるのではないかということを改めて考えさせられました。今回の先生方の意見を踏まえて、今後の研究会やイベントの内容を検討したいと思います。

小林教授がつくった装置を体験している様子
小林教授がつくった装置を体験している様子

プロジェクトについて

シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]の大学や研究機関との協働事業の一環として実施している「情報保障支援調査研究プロジェクト」は、インクルーシブ・デザインの手法により、障害当事者や専門家のみならず、文化や言語、考え方の異なる人々が協働しながら、芸術文化の新しい楽しみ方を追求するものです。

東京都歴史文化財団では、令和3年度より新しい情報保障支援の方法を文化施設に導入・実装化することを目指す調査研究を実施しきました。令和4年度は視覚に障害のある障害当事者を対象とした情報保障支援策に注目し、財団連携事業として、本部、東京都庭園美術館、東京都写真美術館の学芸スタッフとともに、盲ろうの専門家とともに調査を行ってきました。本プロジェクトは、この調査研究を引き継いだものです。
(参考:「Cultural Future Camp:インクルーシブ・デザインで新しい文化体験を共創する」(2021年、文化庁、公益財団法人東京都歴史文化財団)

CCBTと筑波技術大学、盲ろう当事者が協働し、情報保障支援として必要となる触察模型および触察素材を検討し、デジタルファブリケーションを用いた新たな開発に取り組みます。テクノロジーを通じてこれまでと異なる新たな芸術文化の鑑賞・参加機会の提供し、誰もが芸術文化に触れ、参加できるような環境整備に寄与することを目指します。

プロジェクトメンバー

ツール開発:
森敦史(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 技術補佐員)
CCBTテクニカルスタッフ

コミュニケーション支援(日本手話言語⇔日本語):
石川ありす
篠塚正行

コミュニケーション支援(日本語⇔触手話)
東京盲ろう者友の会

プロジェクト・マネージャー:
鹿島萌子(シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT])

プログラム・ディレクター:
大杉豊(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター教授/手話言語学、ろう者学)
伊藤隆之(アーツカウンシル東京デジタルクリエイティブ推進課課長/シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT])

協働先

国立大学法人筑波技術大学
聴覚・視覚に障害を持つ人を対象とした日本国内唯一の国立大学。なかでも、情報保障学を専門とする情報アクセシビリティ専攻では、聴覚視覚障害の諸特性、コミュニケーション技術、パソコンノートテイク・遠隔情報保障などの情報保障支援技術、アクセス支援技術やアクセス能力の開発、情報提供・支援体制の構築・整備・運用を追求している。同時に障害者支援の中核的な役割を担う専門家の育成を目指している。

森敦史氏プロフィール写真
撮影:佐藤基

森 敦史Mori Atsushi

筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター技術補佐員

先天性盲ろう者として生まれる。コミュニケーション手段としての触手話や指点字等を学び、先天性盲ろう者として我が国で初めて一般大学(ルーテル学院大学)に入学。2020 年に筑波技術大学大学院技術科学研究科情報アクセシビリティ専攻を修了、修士学位取得。主な論文に「先天性盲ろう児におけるファンタジー理解の困難と理解にいたるプロセス―支援者側の援助に焦点をあてて」(卒業論文)、「先天性盲ろう青年における ICT 活用と活用に向けた支援の可能性」(修士論文)がある。