本展示の構成
オーディオゲームセンター+CCBTは下記の3つの構成で作品を楽しむことができます。
- 音でゲームを楽しむ! オーディオゲーム作品の展示
- レーシング、ホラー、アクションの3種のゲームのほか、身体を使ってオーディオゲームを制作できるアプリも体験できます。
- レーシングゲーム「大爆走!オーディオレーシング」
- リズム・アクションゲーム「スクリーミング・ストライクneo」
- ストーリーテリング・ホラーゲーム「幽霊のいるところ」
- オーディオゲーム制作アプリ「Audio AR Game Maker」
- レーシング、ホラー、アクションの3種のゲームのほか、身体を使ってオーディオゲームを制作できるアプリも体験できます。
- 一緒につくる! ハッカソン「音からゲームをつくる」
- オープニングイベントで開催したハッカソンの成果として、7つのゲームの構想・プロトタイプをご覧いただけます。
- 世界の様々な作品をプレイ! オーディオゲーム・アーカイブ+
- 世界各地のクリエイターにより制作されたオーディオゲーム6作品をプレイできます。さらに音だけでどのようにゲームを楽しむか、実際の作品のアクセシビリティ・レビュー動画を紹介しています。
- 「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」をめぐるテクニカルキーワード
- 会場に設置されたテクニカルキーワードは、「オーディオゲー」を考えるうえで有用な技術や装置について解説したものです。それぞれのゲームを体験しながら、どういった原理や技術が使われているか考えてみましょう。また、これらを活用すれば新しい「オーディオゲーム」のアイデアや創作方法がみつかるかも。
- 執筆:松浦知也(サウンドメイカー)
主催者挨拶
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]
シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]のコアプログラムのひとつ「ショーケース」では、創造拠点・ラボ機能を有するCCBTの特徴を活かし、アート&テクノロジーによる表現と、その創作プロセスや技術的背景等を紹介しています。第3回目となる「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」では、研究者、プログラマー、キュレーター、障害当事者から成る協働チーム「DDD(Disability Driven Design)Project」をCCBTのパートナーに迎えます。
「オーディオゲーム」は、オンラインを中心に世界各地のクリエイターにより発表され、多様な人々に楽しまれていますが、DDDでは、2017年より「オーディオゲーム」を実際に開発し、多様な人々とプレイするための展覧会やワークショップを開催してきました。DDDが探求するのは、視覚障害のある当事者とともに開発・プレイすることでひろがる、人間の知覚の可能性であると言えます。音だけで空間・物語をゲーム世界として創り出し、さらに、音だけで移動・スピード・状況描写を感じながらゲームをプレイする。こうした体験は、日々の生活では気づきにくい、音が有する豊かな情報と、音がもたらすわたしたちの想像力を喚起させるでしょう。
「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」では、これまでDDDが開発してきた作品の紹介にくわえ、「音からつくる」「音で遊ぶ」ことを実験・思考するラボラトリーとして、様々な取り組みを行います。ハッカソン「音からゲームをつくる」では、ブラインド・ファシリテーターとエンジニア、アーティスト、市民がゲームの創作に挑戦します。出来上がったプロトタイプは、世界各地のオーディオゲームを集めたコーナー「オーディオゲーム・アーカイブ+」にて発表予定です。さらに、会期中には、アート・アンド・テクノロジーによる「アクセシビリティ」や「インクルージョン」を考える機会として、ゲームの体験会や開発者を交えたミートアップなどを開催します。
本プログラムを通じ、テクノロジーと人間の知覚がもたらす、音による表現の楽しさを存分にご体感いただくとともに、「オーディオゲーム」の新たなアイデアの提案や創作機会にも、ぜひ多くのみなさまにご参加いただけますと幸いです。
解説 オーディオゲームセンター・プラスCCBTって何だ?
DDD Project (Disability Driven Design Project)
ゲームは、人をつなぐコミュニケーションツールであるからこそ、「障害」はプレイヤーたちがともに乗り越えるべき対象となる。だからこそ、そこに参加できる人を選ぶ基準は決してないはずだ。
音からつくり、音で遊ぶオーディオゲームは、主に視覚障害者の間で楽しまれてきたゲームの形態である。2017年から始めた「オーディオゲームセンター」の活動は、視覚障害者が中心になりながらも、視覚の有無問わず多くの人がオーディオゲームを楽しめる場をつくる、という趣旨にもとづいている。それは、視覚障害者同士で楽しむ従来のオーディオゲームの世界とは少し異なり、音で構築する世界の入口を晴眼者(目が見える人)たちが教えてもらう、通常とは逆の方向のインクルーシブなプロジェクトだと考えている。
普段、視覚から多くの情報を処理することに慣れている晴眼者は、音の情報も視覚で補完していることが少なくない(たとえば車が通り過ぎる音も、一旦車だと視認したら、その音が消えるまで意識を向けている人は少ないだろう)。だから晴眼者がつくる「音ゲー」も、結局は画面に映っている要素に合わせてリズムをとる、「視覚ゲー」だったりする。裏を返せば、オーディオゲームにおいて大きなハンデを追っているのは、音と遊ぶことに慣れていない晴眼者の方なのだ。
私たちはこれまで、自分たちがつくったゲームをプレイしてもらう場をつくってきた。しかし、今回の「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」では、私たちだけでなくこれまで世界各地の先人たちがつくってきたオーディオゲームの展示やハッカソンの開催などを通して、「音からつくり、音で遊ぶ」ことの面白さを感じ、実践する仲間を増やしたいと思っている。その先に、私たちがともに「障害」を乗り越えるための共創の土壌が生まれていくことを願って。
コーナー「音でゲームを楽しむ! オーディオゲーム作品の展示」
実空間でみんなでプレイできるオーディオゲーム作品を展示。これらの作品は、アート、テクノロジー、デザイン等の専門性と、「障害」というコンディションの中で生まれる発想や感覚を生かして創作されています。レーシング、ホラー、アクションの3種のゲームのほか、身体を使ってオーディオゲームを制作できるアプリも体験できます。
作品解説 レーシングゲーム「大爆走!オーディオレーシング」
- 説明
- プレイヤーの進むべき方向を示す「ガイドメロディ」を頼りに、車を走らせるレーシングゲーム。ヘッドフォンの左右から聞こえるメロディを追いかけ、さらに次々に熱弁するレース実況にあわせてハンドルを切りながら、1位を目指します。音から空間を意識し、スピードを想像できれば、迷わずにゴールに辿り着けるはず!
- ゲームデザイン・開発:オーディオレーシングチーム
- 監修:筧康明
- テクニカルノート(筧康明)
- ヘッドフォンから聞こえる誘導音を主な手がかりとしながら、空間ないを連続的に移動・回転しながらゴールを目指すレーシングゲーム・誘導音は音の左右のステレオパンニングによる音像定位により提示され、プレイヤーはそれを追いかけるようにハンドルを操作して走行する。誘導音にクワ、音声実況、ラップ、コース上に配置したオブジェクトの効果音などの複数の音情報は、プレイヤーのゲーム状況の把握や自由な走行を支える。
- テクニカルキーワード
- リアルタイム
- ボタンを押した瞬間、即座にキャラクターが動いて音が鳴ると、まるで自分がそのキャラクターとして行動してるような没入感が生まれる。一見簡単なように思えるこの処理は、ボタンからの入力を受け取り、音の再生処理を行ってスピーカーへ信号を送り出す処理を、画面の描画や他の処理と並行しつつ数ミリ秒に間に合うよう工夫されている。
- コンボリューション(畳み込み)
- ある空間で短いパルス音を鳴らした響きを録音しておけば、そのデータと別に録音した音とで畳み込みという処理を行うことで、あたかもその空間で音を鳴らしたように響きをつけられる。録音と同じように響きもまたサンプリングできるのだ。
- 声の合成
- 人の声を人工的に再現する試みは、ケンペレンのふいごで空気を吹き込む機械的なものから、鍵盤を押すとアナログ電気回路で合成するベル研究所のヴォーダーなど長い歴史がある。近年では機械学習の発展に伴い、ほとんど実際の人間の声と区別がつかなくなってきている。キャラクターのセリフが録音ではなく全てリアルタイムに生成される日も近いかも?
- リアルタイム
作品解説 リズム・アクションゲーム「スクリーミング・ストライクneo」
- 説明
- ルールは、音に合わせて叩くだけ! 叩く爽快感を追求した新感覚オーディオゲーム。敵の来る方向を音で聞き分け、迫ってくる敵をひたすら殴って倒す「ゾンビ編」。そして、音を出しながら飛んでくる板や瓦を自慢のパンチでたたき割る「空飛ぶ瓦編」を楽しめます。
- 開発:野澤幸男
- ナレーション:北村直也
- 開発ノート(野澤幸男)
- 本作は、ステレオヘッドフォンから聞こえてくる音を聞き分けて、ヒタヒタと近づいてくる敵を叩くだけのシンプルなゲームです。敵は、左・中央・右の3つの方向から攻めてくるので、どの方向から来ているかを正しく判断することが、高得点の秘訣です。効果音を再生するときに、ヘッドフォンの左と右の音量を個別に変化させることで、音が左や右、真ん中から聞こえてくるように調整しています。
この作品は元々、2013年に私が個人的に作ったものから派生しました。初期バージョンの頃から、100種類以上の「おかしな叫び声」を厳選して収録していました。暴力的なゲームというよりは、叫び声のあまりのおかしさに、プレイしながらつい笑ってしまうというコンセプトでした。
「オーディオゲームセンター」のプロジェクトが始まったときに、この作品は、システムのシンプルさから、最初の作品として採用されました。それから、いくつかのアップデートを重ねたものが、今回の「ネオ」バージョンです。
本バージョンでは、実際に叩く動作が加わることで、音と身体感覚の両方でゲームの臨場感を味わえます。さらに、叫び声をふんだんに使ったオリジナルのモードに加え、軽快なリズムで瓦を破壊していく爽快感あふれる種目を加えました。それらを盛り上げるナレーションと一緒に、お楽しみください。
- 本作は、ステレオヘッドフォンから聞こえてくる音を聞き分けて、ヒタヒタと近づいてくる敵を叩くだけのシンプルなゲームです。敵は、左・中央・右の3つの方向から攻めてくるので、どの方向から来ているかを正しく判断することが、高得点の秘訣です。効果音を再生するときに、ヘッドフォンの左と右の音量を個別に変化させることで、音が左や右、真ん中から聞こえてくるように調整しています。
- テクニカルキーワード
- アルゴリズムを聴く
- コンピューターの初期、スピーカーはディスプレイよりも安価で手軽にデバッグできる出力装置だった。プログラマーたちは電気回路にスピーカーを繋げ、流れている信号を直接聴くことで、計算がきちんとできているかを確認していた。これを逆手に、スピーカーに任意のタイミングでパルスを流すようなプログラムを作り、コンピューターで音楽を鳴らす試みが始まった。
- オブジェクトベースドオーディオ
- ゲームの中では録音された効果音や音楽がタイミングに合わせて鳴っているだけではない。自分と敵やアイテムとの位置関係や種類といったメタデータと音源を組み合わせて音色や定位をリアルタイムに加工している。FPSゲームではこれが自分や相手の位置や向きを知る重要な手掛かりにもなっている。
- 音像定位
- 自分より左側から発された音は、左耳の方にわずかに早く届く。この遅れや音量差をもとに、人は音源が左右どの位置から来たか感じる。上下や前後の違いは、音が耳や頭、部屋の壁で跳ね返ることによる音質変化で感じ取れる。例えば耳元で録音した音をイヤホンで再生すれば、その時の音像定位を再現できるし、音質変化のパターンをデータ化して任意の位置から聞こえるようにすることもできる。
- 『Rainbow Six Siege』『 Cyberpunk 2077』など
- アルゴリズムを聴く
作品解説 オーディオゲーム制作アプリ「Audio AR Game Maker」
- 説明
- 実空間にバーチャル空間を重ねるAR技術を活用し、スマートフォンなどのデバイスを使って実空間に色々な音を置いてオーディオゲームをつくれる「Audio AR Game Maker」。目が見える人も見えない人も操作できるよう設計されたこのアプリで、仲間とルールを考えながらゲームをつくってみましょう。
- 開発:浦田泰河
- サウンドクリエイター:野澤幸男 テクニカルディレクター:筧康明 プロデュース:田中みゆき
- アドバイザー:犬飼博士、加藤秀幸 協力:三浦剛
- テクニカルノート(筧康明)
- 実空間に音を配置し、即興的にオーディオゲームを開発し、体験できるARアプリ。操作はモード設定、音の配置、音の編集、体験のカテゴリーに分かれており、ユーザーは画面をスワイプするだけで操作入力ができる。また、フィードバックも音声で伝えられるため、画面を注視することなくプレイしながら操作ができる。スマートフォンのカメラ等のセンサーにより、自己位置推定を行っているため、マーカーを読み取るだけで複数人での同時プレイが可能。
作品解説 ストーリーテリング・ホラーゲーム「幽霊のいるところ」
- 説明
- かつて友人だった女の幽霊に導かれながら、音で記憶を辿っていくストーリーテリング・ホラーゲーム。親しげに話しかけてくる彼女は、なぜあなたの前に再び現れたのでしょうか?立体音響技術によって構築された、様々に響き渡る音を手がかりにエピソードを辿ってみよう!
- ゲームデザイン・テクスト:藤原佳奈
- ゲームデザイン・コンセプト:田中みゆき
- 音楽:角銅真美 技術開発:赤川智洋(株式会社A-KAK)、筧康明
- 立体音響制作技術協力:ソニーPCL株式会社
- テクニカルノート(筧康明)
- ソニーの立体音響技術360 Reality Audioにより、空間に配置されたスピーカー群から高い没入感を有する音場が提示される。プレイヤーの位置・向きの情報は手元のコントローラーを通してリアルタイムに取得され、インタラクティブにコンテンツに反映する。オープンイヤー型イヤホンを通じた耳元への音響や、コントローラーを通じた触感提示などの多層的な情報提示はにより、複数のプレイヤーが自らの選択によって異なるストーリーを体験する独特なゲーム世界を可能にする。
コーナー「一緒につくる!ハッカソン「音からゲームをつくる」」
- 概要
- 「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」では、オープニングイベントとして3日間にわたり、オーディオゲームを構想・開発するハッカソンを開催しました。 エンジニアやアーティストとブラインドファシリテーター、そして公募で集った22名の参加者により計7つのゲームが構想・開発されました。本コーナーでは、この活動の様子と、出来上がったプロトタイプを展示しています。
- 開催日程:7月13日(土)〜15日(月・祝)
- 総合ファシリテーター:犬飼博士(ゲーム監督、運楽家)
- ファシリテーター:石田颯人、江頭実里(eスポーツプレイヤー/株式会社ePARA)、大町祥輝、加藤秀幸(システムエンジニア、ミュージシャン)、白井崇陽(バイオリニスト/ゲームアクセシビリティ研究チーム IGL(インビジブル・ゲーミングラボ)代表)、すずえり(鈴木英倫子)(サウンドアーティスト)、辻勝利(アクセシビリティコンサルタント、株式会社SmartHR)、長島千尋(エンジニア、リサーチャー)、野澤幸男(プログラマー)、真しろ(立教大学大学院生)、松浦知也(サウンドメイカー)、三浦大輝(エンジニア/CCBTテクニカルスタッフ)
- 総合ファシリテーション・犬飼博士によるハッカソン・レポート!
- 1日目:7月13日(土)
このハッカソンは、公募で集った一般参加者22名、視覚障害のあるブラインドファシリテーター6名、エンジニア/アーティストファシリテーター6名の計34名でスタートしました。開始時には40分ほどのレクチャーが行われ、オーディオゲームの定義、アクセシビリティとの違い、関連技術、そしてゲームやプレイ、面白さの本質について説明がありました。
国籍・年齢・性別・障害・趣味嗜好が違う人たちが集った本ハッカソンでは、紙とペンではなく、コンピュータ等の端末の音声読み上げ機能とGoogleドキュメントの共同編集を活用し、全参加者がアイデアを出し合える環境を整えました。そのため、新たなオーディオゲームのアイデア出しにも非常に多くの構想が出揃いました。これらはChatGPTと手動で分類が行われ、各参加者の興味に基づいてAからGまでの7チームが誕生しました。
そして、チームに分かれてからが本格的なゲーム制作フェーズです。各チーム毎にアイデアを練り、開発するゲームの内容を決定していきます。夕方の中間発表では、各チームが「ゲームの企画」と「大まかなタスク」について発表しました。 - 2日目:7月14日(日)
ハッカソン2日目は、朝9時から夜9時までの12時間が制作作業に充てられました。各チーム、前日に決定したゲーム企画の実現に向けて熱心に取り組みます。
これらのチームには2種類の開発補助担当者(ファシリテーター)が加わり、制作プロセスをサポートしました。
エンジニア/アーティストのファシリテーターは、技術的なサポートと創造的なアドバイスを提供する重要な役割を担います。音響技術の実装方法、ゲームデザインの改善点、アートワークの制作技法などについて専門的な知見と技術を共有しました。ブラインドファシリテーターは、視覚障害者の視点からゲームの体験性やアクセシビリティについてフィードバックを行いました。このハッカソンの特徴ともいえる総勢12名のファシリテーターの意見は、オーディオゲームの本質的な面白さやアクセシビリティを高める上で貴重な役割を果たしました。
参加者はゲームづくりの楽しさを味わう一方で、コミュニケーションの難しさや時間制限や技術的な課題に直面し、緊張感や葛藤も感じていたことでしょう。
夕方の中間発表では、各チームはできるだけプレイアブルな状態でゲームを発表しました。他のチームの参加者や運営・ディレクターなどからの具体的なフィードバックにより、開発中のゲームを客観的に見直し、改善点を見出すことができました。 - 3日目:7月15日(月・祝)
朝9時、ハッカソン最終日の制作が始まりました。13時までの4時間、各チームが様々なアプローチで制作に取り組みます。アイデアを精一杯詰め込もうとするチーム、要素を絞ってコンパクトにするチーム、説明方法について議論を重ねるチーム、録音してきた音を丁寧に整えるチームなど、様々に制作に励みます。「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」を楽しむ来訪者も加わり、会場の熱気はどんどん高まっていきました。
13時、制作時間が終了。各チームともに、参加者みんなに作品を体験してもらえるよう、完成したゲームを簡易的に展示。企画書や設計図、最終的に組み込めなかったデバイス、木工の途中経過などがそのまま置かれた現場は、まるでゲームセンターのような雰囲気に早変わり。制作者自身がプレイアブルに展示を行う様子は、まさに「つくって遊ぶゲームショー」のようでした。参加者たちは熱心に作品を体験し、感想を共有し合い、お互いの創造性を称え合います。
3日間のハッカソンはここで終了しましたが、オンラインチャットでのコミュニケーションは続き、追加開発や展示発表に向けた準備が早速始まりました。
- 1日目:7月13日(土)
- プロトタイプの公開について
- 3日間のハッカソンでは、「何を」「どうやって」「いつ」「だれが」つくるのかをチーム単位でコミュニケーションし、制作・行動しました。本展示は、ハッカソンの参加者にとっては『なぜこのゲームをつくり展示したのか』を個人的に/社会的に問う機会として、さらにプレイする来場者にとっては、その答えとなる必然さと偶然さを感じる機会になればと思っています。こうした共有しあえる機会、開発とプレイが行き来する出来事を通じて、自然や社会を「デベロップレイ(開発してあそぶ)」する文化が育つことを願っています。
- 総合ファシリテーター:犬飼博士(ゲーム監督、運楽家)
ハッカソン「音からゲームをつくる」」成果展示(解説・講評)
- 「利き音」
- 開発:木原共、草野航太、吉原美和
- 説明:水を注ぐ音とお湯を注ぐ音のように、かなり似ているけど実は違う二つの音を聞き分けるゲーム。画面の左側には1の音、右側には2の音が入っています。タップで音を切り替えて選択し、長押しで音を決定します。このゲームをやり込めば、普段は気づかない音の微妙な差異に敏感になれるかもしれません。
- このゲームは複数人でやることもできます。複数人でのプレイの場合は、多数決で正解を決めてください。
- 日本語:映像+オーディオ 英語:映像のみ対応
- 講評:「音を聞き分ける」という本作のシンプルなアイデアは、オーディオゲームの本質を一筆で奏でています。かつて音階を当てる電子ゲームは存在しましたが、生活音のような繊細な音を聞き分けるゲームは21世紀のHi-Fiオーディオ環境が整うまでは存在できませんでした。このゲームは、その事実を人類遊戯史に明確に刻んでいます。今後多くのクリエイターによって参照されることになるでしょう。(犬飼博士)
- 「聴覚神経衰弱」
- 開発:岩谷真尋、大町祥輝、辻勝利、深野奨太、福原聡太郎
- 説明:このゲームは音で神経衰弱をするものです。
25個のボタンがあり、押すと様々な音がなります。同じ音のボタンを同時に押すことで音を消すことができます。タイムリミットは10分、それまでに全ての音を消しましょう。
でも爆弾には注意して!押してしまうと残りのプレイタイムが少なくなってしまいます。 - 日本語のみ
- 講評:音だけを頼りに神経衰弱をするという分かりやすいルールのもとで、時間制限や爆弾などの独自のルールの導入で緊張感溢れるゲームに仕上げた点が素晴らしい。随所のサウンドデザインにもこだわって、楽しさや焦りを引き立ててくれます。ハッカソン参加者からもすぐにでも日常でプレイしたいという声も。(筧康明)
- 「ありきたりで不親切なエレベーター」
- 開発:安藤新樹、梅田正人、江頭実里、鈴木智子、長坂らも、長島千尋、湯谷承将
- 説明:いろいろな階でとまるエレベーターから、音だけを頼りに1階に降りる脱出ゲーム。
ヘッドフォンで各フロアの音を聞き、1階に到着したと思ったらキーボードの↑(矢印上)ボタンを、違う階だと思ったら↓(矢印下)ボタンを押して、無事に1階で降りることを目指します。ブラインドの方の、エレベーターで降りたい階に降りるのが難しいという実体験から着想を得て、制作を行いました。 - 日本語のみ
- このゲームが生まれたきっかけ:チームでどんなゲームを作るか相談している時、方向性として「音の脱出ゲーム」を作ってみたいという話になりました。そこで、どこから脱出するゲームにしようか、脱出したい場所って一体どんなところだろうとアイデアを出し合っていると、ブラインドファシリテーターの江頭さんから「実はエレベーターが苦手なんです」というお話が。実際に制作メンバー全員で目をつぶって近くのエレベーターに乗ってみると、アナウンスが全くなく、今どの階にいるのか、そもそもエレベーターが上っているのか下っているのかもだんだんわからなくなってくるということに気がつきました。今も日常に潜んでいる目が見えない人たちが感じる不自由さを、ゲームを通して共有できたらと思います。
ビルのフロアの音や、エレベーターの音は、バイノーラルマイクやガンマイクを用いて実際にフィールドレコーディングを行い、リアリティのある音作りを心がけました。 - 講評:音を手がかりに目的の階で降りるという、見えない人の日常でしばしば起こり得る状況をゲームに。独特の集中と緊張感が味わえると共に、普段あまり意識しない音から立ち上がる各階の「風景」を想像するのも楽しい。ハッカソンでは実際のエレベーターやボタンを模した体験装置の実装にも取り組んでいて今後の発展にも期待したい。(筧康明)
- 「社会人魔法少女オル」
- 開発:鈴木椋大、野澤幸男、宮村梓沙
- 説明:社会人魔法少女オル(OL)が、世界中のみんなを寝かせてイタズラしちゃうモンスター「ねるモン」を倒して世界を救うアクションゲームです!
- 遊び方
- モンスターの「ねるモン」が襲いかかってきた!
ステッキを縦に持ち、左右に振って、社会人から魔法少女に変身しよう! - 魔法少女に変身できたら、早速「ねるモン」に攻撃だ!
左右にステッキを振ってパワーをチャージ!チャージが貯まったら前方向にステッキを倒して「ねるモン」を攻撃しよう! - 2回の攻撃が成功したら、無事「ねるモン」を倒すことに成功!これで、世界が救われます!
※ただし…攻撃中に「ねるモン」が眠気パワーを放つことがあるよ!
眠気パワーに3回浴びてしまうと眠くなって戦えなくなっちゃうよ!起きたらもう一回チャレンジしよう!
- モンスターの「ねるモン」が襲いかかってきた!
- 日本語のみ
- このゲームが生まれたきっかけ:とにかく派手派手なゲームが作りたい!!!世界を救う壮大なことがしてみたい!!!!じゃあ、昔憧れた魔法少女になってみよう!!!!
- 講評:オーディオゲームにはヒロインが足りない!という事実を今更ながら気づかせてくれたゲームです。少なくともこれまで体験したオーディオゲームは、すべて男性目線で開発されたものでした。ビジュアルが要らない、つまり見た目の性別から自由になれる音の世界で、誰でもヒロインになりきって楽しんでください。(田中みゆき)
- 「バードっち」
- 開発:石田颯人、カイカセイ、sion、白井崇陽、中山蒼玄、南部隆一、真しろ、李伊婧
- 説明:このゲームは、目に見えない小鳥「オーディオン」を見つけて餌を与えるゲームです。 スマートフォンを持ちながら空間を歩き回り、鳥を探してみてください。近づくと、鳴き声や羽音が大きくなります。そのタイミングでダブルタップをして餌を投げてみましょう。成功すると餌を食べる音が聞こえます。餌を5回あげると、お腹がいっぱいになってゲームクリア。部屋を動きまわる「オーディオン」と遊んでみてください! ※オーディオンは5メートル四方の空間を自由に動き回っています。オーディオンを探すことに集中しすぎて壁やモノに当たらないように気をつけてください。
- 日本語のみ
- 講評:ゲームは、敵キャラクターや対戦相手に対して、勝たなければいけないことが多いです。ですが、それに疲れてしまうこともあるでしょう。このゲームの「オーディオン」は、細かい部分まで作りこまれており、音だけなのに、なんだか本当に生きているかのようです。殺伐とした競争社会から一瞬離れて、オーディオンとマッタリ過ごすことができる、単純でありながら心休まる作品です。(野澤幸男)
- 「Touchstones」
- 開発:カルメン・パパリア、すずえり(鈴木英倫子)、スミス・ウェル・ミッシェル、松浦知也 、山崎阿弥
- 説明:Touchstonesは「観察」ゲームです。プレイヤーはゲームを通して建造環境(built environment)の音や質感への好奇心と理解を深めていきます。Touchstonesでは、自称ノン・ビジュアル・アーティストのカルメン・パパリアがノン・ビジュアルの世界にプレイヤーを招き入れ、渋谷東武ホテルとその周辺をナビゲートしながら、彼にとって重要な音たちについて説明します。魔法の剣で時計を打ち負かしたり、獣をやっつけたりするのではなく、カルメンの探索杖を手に取り、彼の音の説明や、彼が散策中に出会った物の音を起動させてみましょう。
杖を持ったままその場に立ち止まり、慣れない空間を移動したり障害物を検知したりするために、杖を使うときのようなジェスチャーをしてください。一連の4つのジェスチャーは、対応する4つの音の説明を起動させ、プレーヤーは隠された音とその音を鳴らした物との関係をカルメンの声で聞くことができます。そして、杖を触覚器のように使い、床の上におかれたパネル(スイッチ)を杖で触れると、カルメンの散策の手がかりとなった音を発見するでしょう。Touchstonesによって、非視覚的な世界の美しさやニュアンスを求めて、プレーヤーそれぞれの探索がはじまりますように! - 遊び方:探索杖を使って、カルメンが歩いているときに出会った物の音と、その音について話しているカルメンの声を起動させましょう。探索杖の4つの動かし方で異なる4つの声(音の説明)を聞くことができます。
- 4つの動かし方
- 同じ場所で4回以上、床をたたく
- 探索杖を左右に、5秒以上振る
- 探索杖を前後に、5秒以上振る
- 探索杖を左右にふりながら、床を5回以上たたく
- 説明を聞いた後、杖で床の4つのパネルをたたき、カルメンの声が説明した音を探してみましょう。
- 発見ポイント
- 聞こえてくる音と、その音の説明の関わりを考えてみましょう。
- 4つの動かし方
- 英語・日本語対応
- 講評:手練のアーティストたちが集まり、勝敗を決めるのとは違う次元からゲームを作ろうと模索した実験的作品。目的地やストーリーこそないものの、全盲のカルメンさんの体と知覚を借りてフィールドに働きかけるという点で、「ゲーム」あるいは「プレイ」のひとつの形と言えるのではないでしょうか。(田中みゆき)
- 「ぶるパッチン」
- 開発:加藤秀幸、たけうちしん
- 説明:夜中に寝ている時にプーンという音とともに蚊に襲われる経験は誰にでもあるでしょう。蚊の方向がわからず、迫ってくる感覚はとても恐ろしいものです。このゲームではその体験を妖精とクラッピーが手助けしてくれます。妖精は震えることで蚊の方向を教えてくれます。クラッピーはパッチンすることで近くに来た蚊を確実に叩き潰してくれます。
- 日本語のみ
- 遊び方
- 親指と人差し指をそっとつまむと蚊のいる方向に引っ張ってくれるよ!
- 蚊のいる方に回してパッチン!
- 講評:左手でかわいい「妖精」をつまむと、妖精が敵の方向に手を引っ張ります。このゲームの原理は、特定の振動を感じると引っ張られていると感じる人間の身体の錯覚を利用しています。左右へ飛び回る音と、触覚の不思議さを楽しめる作品です。ぜひご体験ください。体験しないとわかりません。(犬飼博士)
コーナー「世界の様々な作品をプレイ! オーディオゲーム・アーカイブ+」
様々なクリエイターにより制作された世界各地のオーディオゲームを集めたゲームコーナー! ここで体験できるのは、主に目が見えない人がつくり手となり、音によってつくられてきたアーケードゲーム、パズルゲーム、アクションゲームなど。聴覚や触覚を研ぎ澄ませ、音の響きから空間を予測したり、人やものの存在を認識したりしながら、みんなでゲームをプレイしてみよう。
- 音で楽しむゲームコーナー
こちらのコーナーでは5つのゲームが体験できます。- 「後だしジャンケン」(2009)
- 開発:野澤幸男 © 2009 Nyanchan Games
- 音楽に合わせて後だしじゃんけんで勝ち続けよう!
- 難易度:やさしい
- ジャンル:リズムゲーム
- 映像の有無:なし
- 「マインスイーパー」(2023)
- 開発:諸熊 ©2023 Morokuma
- 隠された地雷を避けながら、音を頼りに全ての地雷を取り除こう!
- 難易度:やさしい
- ジャンル:パズルゲーム
- 映像の有無:なし
- 「オーディオ・ストライク 」(2019)
- 開発:諸熊 ©2019 Morokuma
- 音を頼りに標的を狙って射撃しよう!
- 難易度:普通
- ジャンル:シューティングゲーム
- 映像の有無:なし
- 「Din」(2007)
- 開発:Team_Bill, created during Global Game Jam 2007
- 騒音の中から指示がきこえてくるぞ!ちゃんと聴きとって、ミッションを達成しよう!
- 難易度:やさしい
- ジャンル:ききとりゲーム
- 映像の有無:あり
- 「Audio Game Hub」(2016-)
- 開発:Jarek Beksa(ニュージーランド)
- Audio Game Hub は、『ブロックス』を含む複数のオーディオゲームをプレイできるスマートフォンアプリです。
- 難易度:難しい
- ジャンル:テトリス
- 映像の有無:あり
- 「後だしジャンケン」(2009)
- 映像ありで楽しむゲームコーナー
- 「みんなのリズム天国」アクセシビリティ・レビュー
- 流れてくる音楽にタイミングを合わせてボタンを押すだけで楽しむことができるリズムゲーム。2006年に最初の『リズム天国』が発売されて以来、4つのタイトルが生まれるほど人気のシリーズ
- 「Blind Drive」アクセシビリティ・レビュー
- 科学実験に参加して取っ払いで手当を貰おうと企むドニーだったが、気付いた時には手錠と目隠しをされ、道路を逆走をする羽目に。おまけに、夕飯を祖母と食べる予定だったが、このままでは間に合わない。どうする、ドニー?!(引用元:公式サイト)
- 「Blind Drive」(2021)
- 開発:Lo-Fi People
- 難易度:やさしい
- ジャンル:ドライブゲーム
- 映像の有無:あり
- 「The Last of Us: Part I」アクセシビリティ・レビュー
- 二人の主人公のアメリカ縦断を描く、数々のアワードを受賞した本格アクションRPG。アクセシビリティ機能の充実によって、視力の有無に関係なくプレイできるだけでなく、クリアすることができるゲーム。
- 「みんなのリズム天国」アクセシビリティ・レビュー
- テクニカルキーワード
- 音ゲー
- 音や音楽がテーマになっているゲームでも、むしろ画面に合わせてリズムよく入力する、というように視覚優位や、視聴覚の融合に重きを置いたゲームは少なくない。音がテーマで、音を鳴らすことそのものが目的のゲームはどんなものがあるだろう(もしかして、それは楽器?)。
- 『パラッパラッパー』『ビートマニア』『Rez』『Tetris Effect』『リズム天国』など
- 音声インターフェース
- ゲームにおける音は聴く以外にも、プレイヤーが喋ることで操作するものも昔からある。特に最近は機械学習により精度が向上したため、コントローラーを一切使わず音声認識インターフェースだけで操作するようなゲームも出てきている。
- 『ピカチュウげんきでちゅう』『シーマン』『The 3% Challenge』など
- スクリーンリーダー
- 画面上の情報を音声で読み上げるスクリーンリーダーは、コンピューターがテキストだけで操作する方式だった頃から存在してきた。画面上のインタラクションがリッチになるにつれ読み上げの技術も複雑になってきたが、NVDAのように、視覚障害を持つプログラマーを中心に無料かつオープンソースで開発されてきたソフトウェアの普及率が高くなってきている。
- 音ゲー
解説 オーディオゲームのこれまで
- 解説
- 野澤幸男(「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」プログラムディレクター/プログラマー)
- 現在「オーディオゲーム」と呼ばれているものは、元々、デジタルゲームをプレイしたいという視覚障害当事者によって製作されてきた。具体的な定義はないが、これまでの状況から、画面を見ることなく、音だけでプレイするゲームを総称したジャンル名であると考えられるだろう。
現在確認できている最古のオーディオゲームは、1988年に作られたボウリングゲームである。このゲームは、ブザーで音を出し、ピンの音がした瞬間を狙ってボタンを押すことでピンを倒すという内容だ。このように、最初期のオーディオゲームは、音声読み上げによるテキスト情報が中心で、サウンドエフェクトを使用するにもビープ音が限界だった。
21世紀に入ると、開発のプラットフォームはWindowsに移り始める。Windows上では、録音した効果音を再生するための環境もサポートされ、音のステレオ再生や、音量の自由な変更が可能となった。この時期に考え出された情報提示手法は、現在でも広く使用されており、オーディオゲームを構成する最も大きな要素と言っても過言ではないだろう。
2001年には、GMA Games社が、世界初のオーディオFPS*の開発に成功した。本作では、プレイヤーの行動、周囲のオブジェクト、迫ってくるモンスターなど、全ての要素にサウンドが割り当てられており、ヘッドフォンを装着したステレオフィールド(音の左右定位)上で、プレイヤーを中心としたリアルタイムな音響合成が行われるようになった。
そして、2002年には、オーディオゲームのあらゆる情報を集積する世界最大規模のウェブサイト「Audiogames.net」が設立された。この時期から、多くの開発者がWindows上でオーディオゲームを製作するようになり、2010年までには、一般的に考えられるほぼ全てのジャンルのゲームが登場し、その数は数百種類にもなった。2006年以降には、日本においてもオーディオゲームの開発が急速に進展し始めたが、開発者は推定10人以下とされる。以降、開発は小規模ながらも競争状態に突入し、現在に至るまで各々の作品のクオリティやコンテンツの量などにおいて、日々進化が続いている。 - *FPS:ファーストパーソン・シューティングゲーム、プレイヤーが自身の視点を通じて敵を攻撃するシューティングゲーム。
- テクニカルキーワード
- クロスモーダル
- 実際には1つのスピーカーからしか音が出てなくても、画面上を横切る物体と同時に音を流せば音も動いたように感じるように、複数の知覚(モーダル)を組み合わせることで感じ方が変化することがある。視覚以外にも、例えば自分がポテトチップスを噛む音を増幅して聴きながら食べると食感が変わる、なんてことも。
- 中島 武三志, 菅野 由弘, ポテトチップスを利用した咀嚼音遅延フィードバックによる食感拡張の検討, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, 2016, 21 巻, 4 号, p. 585-594
- 錯聴
- 錯視と同じように、聴覚にも、複数の音が鳴っていると本来聞こえるはずの音が聞こえなくなるマスキングのような現象や、逆に鳴っていないはずの音が聞こえるミッシング・ファンダメンタルのような現象がある。これを逆手に取ると、認識できない情報を捨てるMP3のようなデータ圧縮にもつながる。
- ソニフィケーション
- メッセージや情報を全てテキストで表示するよりアイコンとして視覚化するように、音として聴かせる=ソニフィケーションする方が直感的になることがある。ピクトグラムが適度に形を省略するように、音でも実際に録音した効果音から楽器のメロディまでを使い分けることで、伝えたいメッセージの抽象度を操作できる。「セーブ完了」の時に鳴っている音にはどんなものがあるだろう?
- クロスモーダル
解説 オーディオゲームの技術的な課題と可能性
筧康明(「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」プログラムディレクター/研究者、アーティスト/東京大学大学院教授)
オーディオゲームを深め、プレイヤーや開発者のコミュニティを広げるための技術的可能性と課題をまとめる。
- 音を感じる技術
- ステレオフォニックや頭部伝達関数を考慮した設計で、ヘッドホンやスピーカーアレイを介したよりリアルで立体的な音響提示が実現でき、空間的ゲーム体験を可能にする。また、微細パターンを提示できる振動アクチュエータなどを介して触感として届けることで、さらなるリアリティの向上や情報保障も期待できる。
- 音を操る技術
- キーボード等のみならず、スプレー型、ハンドル型など、より身体的動作を活かすタンジブルインターフェースや空間を歩き回るARなど、新たな操作手段がゲーム性を高める。視覚情報に依存しない操作性を実現するためには、触覚フィードバックや音声コマンドを組み合わせることが有効である。
- 音を共有する技術
- 複数人でのプレイや周囲の観客や聴衆にもゲームを届けるために、指向性スピーカー等を活用した選択的・局所的音響提示、低遅延遠隔同期、聴覚障害者等に向けた音響可視化など、音による臨場感や楽しさを共有するための技術領域は広い。
- 音をつくる技術
- リアルタイム音声合成や空間音響シミュレーションなど音響生成技術の進展は多様でリアリティのあるゲーム開発を可能にする。Unityなど立体音響を手軽に扱える開発環境が登場した一方で、まだその多くは視覚情報を必要とするという課題もある。スクリーンリーダーに対応した開発環境やインターフェースの拡充が必要である。
ゲームの裾野を広げる、至高の体験を生み出す、感覚やスキルを育むなど、目的によっても必要とされる技術は異なる。ユーザビリティやアクセシビリティと共に、ゲーム性そのものに寄与する新しい「楽しさ」を拓く技術の登場に期待したい。
解説 オーディオゲームとサウンドアクセシビリティはどう違うのか
田中みゆき(「オーディオゲームセンター・プラス・CCBT」プログラムディレクター/キュレーター、プロデューサー)
オーディオゲームとサウンドアクセシビリティの違いは、前者が音だけでゲームのルールが構築されているのに対し、後者は映像で構築されたルールに音が従うという点にある。
ビデオゲームにとって音は、あくまで視覚的な展開を演出する要素としての位置付けとして使われてきたといえる。実際に、立体音響技術を駆使して音のリアリティを追求したゲームはこれまでもつくられてきた。しかし、たとえばプレイヤーがゲーム内で壁にぶつかっていても足音が鳴り続けるといったように、現実の音とは異なる音の振る舞いが、音を頼りにプレイする視覚障害者にとってしばしば混乱を引き起こしてきた。
また、音がリアルなだけでは、視覚障害者にとってアクセシブルなゲームとは言えない。ゲームを立ち上げ、メニューを開き、必要に応じてキャラクターや設定などを選ぶことができて初めて、ゲームがアクセシブルであると言えるからだ。
先に書いた通り、晴眼者がつくった「音ゲー」は、多くの場合「(画面の視覚要素に合わせてリズムをとる)視覚ゲー」だ。また、一般的なサウンドミドルウェア(ゲームエンジンなどのサウンドの再生、管理をする仕組み)も視覚なしでは扱うことができない。つまり、「音からつくり、音で遊ぶ」ということに関しては、つくる側も遊ぶ側もまったく環境が整っていない現実がある。
今回、「オーディオゲーム・アーカイブ+」では、オーディオゲームのほかに、視覚要素を伴う『The Last of Us: Part I』『みんなのリズム天国』『Blind Drive』の3つのゲームを紹介している。『The Last of Us: Part I』は、音声読み上げや音響キュー、ナビゲーションアシストなどの多様なアクセシビリティ機能によってビデオゲームをアクセシブルにした例である。『みんなのリズム天国』は、「音ゲー」のため一見アクセシブルに見えるかもしれないが、画面の要素を全く読み上げないため、メニューやルールなどを覚えて初めてプレイが可能になる。『Blind Drive』は、オーディオゲームでありながら、晴眼者に対してのアクセシビリティとしてグラフィック要素が用いられている。
それぞれのゲームの違いから、音が主となるゲームのあり方やつくり方について考えてみよう。